その笑顔を守るために
その先へ
秋の葉もすっかり落ちて十二月に入ると、街なかにはあちらこちらにクリスマスのムードが漂いだした。院内にも、受付前に大きなツリーが飾られて通院の患者達にひと時の安らぎを与えている。
「そう言えば、瑠唯…クリスマスと年末、年始はどうするの?」
いよいよ大詰めを迎えている論文を前に置いて山川と瑠唯は、何時もの場所で打ち合わせをしていた。
「ん?クリスマスは外来だから、夕方には終わると思います。年末、年始は…このところ忙しかったからゆっくり休みなさいって、加藤部長がローテーション外してくださって、31日から3日迄お休みもらいました。4日はお当番ですけど…予定は特にありません。」
「じゃあ…取り敢えず25日は夜、食事に行こう。それから…年末からは僕の部屋に泊まりに来ない?」
瑠唯の顔は、一気に赤くなり…けれど彼女は「はい…」と小さく頷いた。
「良し!決まり!何処か眺めのいいレストランを予約しておくよ。と言っても、こんな田舎だから限られてはいるけどね。元日は…そうだなぁーこの土地の氏神様の所にでも初詣に行こうか?瑠唯はもう行ってみた?」
「いえ…車も運転出来ませんし…そんな余裕もありませんでしたから…」
「そうか…じゃあ他にも色々案内するよ!楽しみだ!」
「はい!私も!楽しみにしています。」
瑠唯は恥じらいながらもしっかりと頷いた。
「それにしてもここ…なんか広くなりすぎて、ちょっと居心地が悪くなっちゃいましたね。」
「ああ…まあしょうがない…君目当で若い連中が取っ替え引っ替え集まって来るから…僕としては腹立たしいが…君が気さくに応じるから…でも、こうして資料を広げるには広くて便利になったんじゃない?ただ…」
十人以上が座れる広いスペースの窓際に並んで腰掛けていたその距離を、山川はグイっと詰めて瑠唯の腰に腕を回す。咄嗟に飛び退こうとする彼女の身体をガッシリ押さえると耳元に顔を寄せて囁いた。
「こうやって、いちゃつくのはちょっと目立ってやりにくい。」
瑠唯の戸惑いを他所にニヤリとほくそ笑む。
十二月二十五日…瑠唯は外来診療をしていた。クリスマスのせいかさほど多くない受診者数だ。
…これならきっと定時で終わる。部屋に帰って、シャワーを浴びて着替える時間も充分あるだろう…
瑠唯は少し浮かれていた。実はこの日の為に数年ぶりでワンピースを新調したのだ。それに合わせてバックと靴も買った。ブランド品ではないが、およそお洒落というものに頓着の無い瑠唯にしては、異例の買い物だった。今日の夜は、山川がこの辺では唯一であるホテル最上階のレストランでクリスマスディナーを予約してくれたらしい。
後、十分ほどで帰れる…と思っていた時、瑠唯の胸元で振動音がする。病棟で担当患者の急変を知らせる連絡だった。病室に向かう傍ら、とりあえず山川に事情をメールした。詫びる余裕もなかった。
心臓疾患で入院中の九歳の男の子…瑠唯の評判を聞きつけ、遠方から受診しに来た。状態が思わしくなく、直ぐにオペする事が出来なかったため、入院して療養中であったが…突然発作を起こしたのだ。最悪の場合、緊急オペになるだろう。そう覚悟して病室に急いだ。
結局、一刻を争う事態となり…瑠唯はそのままオペ室に入る。無事オペを終え、瑠唯がオペ室を出たのは日付をまたいでからだった。
深夜自室に戻ってメールを確認すると、山川からメッセージが入っていた。
『大丈夫!残念だけど…ホテルのディナーはまた今度。頑張って。』
思わず涙が出そうになる。
明日、おそらく外来のシフトが入っているであろう山川を朝一番で訪ねて、謝ろう…瑠唯はそう思いながら暫しの仮眠をとった。
「そう言えば、瑠唯…クリスマスと年末、年始はどうするの?」
いよいよ大詰めを迎えている論文を前に置いて山川と瑠唯は、何時もの場所で打ち合わせをしていた。
「ん?クリスマスは外来だから、夕方には終わると思います。年末、年始は…このところ忙しかったからゆっくり休みなさいって、加藤部長がローテーション外してくださって、31日から3日迄お休みもらいました。4日はお当番ですけど…予定は特にありません。」
「じゃあ…取り敢えず25日は夜、食事に行こう。それから…年末からは僕の部屋に泊まりに来ない?」
瑠唯の顔は、一気に赤くなり…けれど彼女は「はい…」と小さく頷いた。
「良し!決まり!何処か眺めのいいレストランを予約しておくよ。と言っても、こんな田舎だから限られてはいるけどね。元日は…そうだなぁーこの土地の氏神様の所にでも初詣に行こうか?瑠唯はもう行ってみた?」
「いえ…車も運転出来ませんし…そんな余裕もありませんでしたから…」
「そうか…じゃあ他にも色々案内するよ!楽しみだ!」
「はい!私も!楽しみにしています。」
瑠唯は恥じらいながらもしっかりと頷いた。
「それにしてもここ…なんか広くなりすぎて、ちょっと居心地が悪くなっちゃいましたね。」
「ああ…まあしょうがない…君目当で若い連中が取っ替え引っ替え集まって来るから…僕としては腹立たしいが…君が気さくに応じるから…でも、こうして資料を広げるには広くて便利になったんじゃない?ただ…」
十人以上が座れる広いスペースの窓際に並んで腰掛けていたその距離を、山川はグイっと詰めて瑠唯の腰に腕を回す。咄嗟に飛び退こうとする彼女の身体をガッシリ押さえると耳元に顔を寄せて囁いた。
「こうやって、いちゃつくのはちょっと目立ってやりにくい。」
瑠唯の戸惑いを他所にニヤリとほくそ笑む。
十二月二十五日…瑠唯は外来診療をしていた。クリスマスのせいかさほど多くない受診者数だ。
…これならきっと定時で終わる。部屋に帰って、シャワーを浴びて着替える時間も充分あるだろう…
瑠唯は少し浮かれていた。実はこの日の為に数年ぶりでワンピースを新調したのだ。それに合わせてバックと靴も買った。ブランド品ではないが、およそお洒落というものに頓着の無い瑠唯にしては、異例の買い物だった。今日の夜は、山川がこの辺では唯一であるホテル最上階のレストランでクリスマスディナーを予約してくれたらしい。
後、十分ほどで帰れる…と思っていた時、瑠唯の胸元で振動音がする。病棟で担当患者の急変を知らせる連絡だった。病室に向かう傍ら、とりあえず山川に事情をメールした。詫びる余裕もなかった。
心臓疾患で入院中の九歳の男の子…瑠唯の評判を聞きつけ、遠方から受診しに来た。状態が思わしくなく、直ぐにオペする事が出来なかったため、入院して療養中であったが…突然発作を起こしたのだ。最悪の場合、緊急オペになるだろう。そう覚悟して病室に急いだ。
結局、一刻を争う事態となり…瑠唯はそのままオペ室に入る。無事オペを終え、瑠唯がオペ室を出たのは日付をまたいでからだった。
深夜自室に戻ってメールを確認すると、山川からメッセージが入っていた。
『大丈夫!残念だけど…ホテルのディナーはまた今度。頑張って。』
思わず涙が出そうになる。
明日、おそらく外来のシフトが入っているであろう山川を朝一番で訪ねて、謝ろう…瑠唯はそう思いながら暫しの仮眠をとった。