極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
6.
 院長夫妻の元を訪ねてから二週間後、拓海さんのマンションへ引っ越すことになった。
 花村医院からは遠いため、退職せざるをえないのが残念だけれど、新しい場所でまた仕事を探そうと思う。
 それに、新しい地区は保育園に入りやすいと聞いている。

「菜乃花」

 仕事の最終日、廊下で康太くんに声をかけられた。

「いよいよ退職だな」
「はい、康太くんのおかげでなんとか生活できるようになって、本当に感謝してます。ありがとうございました」
「大袈裟だなあ」

 康太くんは頭を掻いて笑う。
 黙ったかと思いきや、康太くんは真面目な顔で問う。

「なあ、もしも……もしもあのとき、俺が余計なことを言ってなければ、今菜乃花のそばにいるのは俺だったのかな」

 予想外の質問に戸惑った。
 『もしも』なんて絵空事だ。
 けれど……どんな状況でも、私は拓海さんと出会った時点で人生が変わっていたと思う。
 首を横に振った。

「私はきっと、拓海さんでないとだめなんです」

 康太くんは視線を落として目を閉じ、「そうか」と呟いた。
 人生なんていつどうなるかわからない。
 けれど、運命というものがあるとしたら、拓海さんと縁がずっと続いていたんだと信じたい。
 そして、これからも。
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