◇Clown Act◇

◇♠◇



(ジョーカーside)




誰もいなくなったドアを見つめながら、唇に生じた痛みに今さら気がつく。


舌で舐めれば鉄の味。


知らぬうちに噛み締めてしまっていたらしい。


指で拭ってもペイント色と変わらないので血なのかどうなのか判別がつかない。


が、そんなことはどうでもいい。


……祥


俺のピエロがさらわれてしまった。


その事実に認めたくないほどの嫉妬心が腹の底で煮えたぎっている。


追いかければまだ間に合うか?


いや、間に合ったとしてあのイカレ兄貴がやすやす手放してくれるとは思えない。


むしろ、さらに見せつけてきやがるだろう。


むかつく野郎だ。


いつもいつも、俺には敵わない場所まで、祥の深くに居座りやがって。


感情を抑えるために肩で大きく息をする。


今は勝ち残ることが先決だ。


だが


次会った時


もし祥に傷の一つでもついていたら


俺だって容赦はしないぞ、橋本。


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