姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
新たな難題
遠藤家は、店の裏手にある。
播磨屋をオープンしたのと同じくらいの時期に建てたから、木造二階建ての古風な家だ。
祖父母は朝早くから店に行くから、夜は早めに帰宅する。だから寝る前のひとときは、家族でおしゃべりするのが習慣になっている。
こたつを囲んで、家族だけのホッとするひとときだ。
「というわけで、本当に助かったの」
叶奈は、湯浅譲に助けられた話をした。
「時々いるんだよ、無理を言ってくる客」
「ストレスがたまっているのかもしれないね」
のんびり家族で話していると、いやなことも忘れられる。
「で、助けてくれた人の名前が湯浅さんなのね」
なぜか、麻子が確認してきた。
「自己紹介してくれたから、間違いないと思うけど」
「やっぱり」
「どうかした?」
「物流センターの建設、本決まりみたい」
「そうか。うわさは本当だったんだな」
この近くに巨大な物流センターが計画されていると、以前からうわさされていた。
実際に土地の買収もおこなわれているらしいが、詳しい情報は漏れてこない。
播磨屋の客層にはドライバーの占める割合が多いから、大きな施設ができたら売り上げが増えるだろうと麻子は期待しているようだ。
「今日、銀行に行ったらそんな話が聞こえてきたの」
麻子は離婚後に様々な資格を取って、あちこちで働いた経験がある。
料理は苦手だから、今は店の経理を任されている。
たまたま耳に入った話によると、湯浅ホールディングスが物流センター建設計画に関係しているらしい。
湯浅ホールディングスといえば、日本でも物流大手として名が通っている。
「だから湯浅さんって、湯浅ホールディングスの親戚じゃないの?」
「店に来てくれる人たちは、物流センターに関係しているんだろうなあ」
大きな会社に勤める人が毎日のように顔を見せるのは、仕事上の必要があるからだろうと麻子が言う。
もし大きな仕事でこの街に来ているなら、譲はしばらく店に通ってくれるかもしれない。
叶奈は家族の話を聞き逃すまいと、難しい話を黙って聞いていた。