姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
アプローチ
湯浅家の長男に生まれたときから、譲の運命は決められていたようなものだ。
子どもは生まれてくる家を選べない。
譲は学生時代から、父の会社の後継者争いの真っただ中に立たされている。
気がつけば親族や子飼いの部下、外資からの圧力、そんなものに取り囲まれていた。
周囲の友人も同じような環境に育っていたから、特に疑問を抱いたことはなかった。
ひたすら勉強して有名校に進学し、在学中にはアメリカへ留学。これも最初から決められていたコースかもしれない。
だが譲だって努力はしてきた。
これまで目の前に次々に現れる障害物を倒しながら、全力で進んできたつもりだ。
湯浅ホールディングスに就職してからも、海外に出かけて学んだ。
サンフランシスコのバークレーやメルボルンのクレイギーバーンで働いて、着実に実績を重ねてきた自負もある。
ところが新たに物流センターを立ち上げる仕事を受け持って、これまで譲にとって縁のなかった「挫折」を知った。
大きな仕事を任されてうれしかったのは最初だけだ。
用地買収の最終段階に入ったので、現場を知ろうと意気込んでこの街にやってきた。
だが広大な土地を確保するためには、大学や海外で学んできた知識では歯が立たなかった。