姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
会いたい


松尾家で暮らし始めて、叶奈はいかに自分の考えが甘かったか身につまされた。

上品な言葉使いや所作に慣れない叶奈に対して、琴子の指導は厳しかった。
奈緒と違って叶奈はのびのびと育ってきている。
歩き方や姿勢に始まって、椅子の座り方から食事の作法まで、嫌というくらいダメ出しされる。
お茶やお花のお稽古だって、叶奈には別世界のしきたりだとしか思えない。
しかも稽古の前に、着物の着付けまで習うのだ。

そのすべてを指導できる琴子はすごいとしか言いようがない。
おそらく松尾家に嫁いできた麻子も同じように教えを受けて、かなり苦労をしたはずだ。

「奈緒はすぐに覚えたわ」
「もっと上品に振る舞って」

奈緒と比較されたり指摘されたりしても、出来ないのだから受け入れるしかない。
毎日その繰り返しだが、叶奈はもともと負けん気も強い方だ。
これまで知らなかったことを知るチャンスだと、前向きに思うことにした。
こんなにマナーの勉強をしても一生使うことはないかもしれないが、何かの役に立つかもしれない。

そんな毎日の中で叶奈の支えになったのは、心にある譲への想いだった。



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