姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
過去と現在、そして
「譲、どうしてここに?」
譲の姿を見て驚いたのか、恭介が車から降りてきた。そういえば譲のことには一切触れていなかった。
「叶奈さん、知り合いなの」
大好きな人の目の前で、名前を呼ばれると胸が痛む。
「恭介こそ、どうしてここに?」
「彼女は婚約者だ」
恭介の言葉に、譲が目を見開いた。
「婚約者だって?」
「じ、事情があって!」
違いますと叫びたかったが、叶奈は詳しいことまで話せない。
この状況で真っ先に冷静になったのは、譲だった。
「前田さんに頼み込んで、住所を聞いて来た」
恭介が譲と叶奈をかわるがわる興味深そうに見ている。
なにか言わなければと思うのだが、叶奈はパニックで言葉が浮かんでこない。
「麻子さんが倒れた。一緒に帰ってくれ」
「ええっ」
譲は恭介を無視することにしたのか、迷わず叶奈の手を握る。
「急ごう」
「は、はい」
譲と初めて手をつないだのに、叶奈は麻子のことだけしか考えていなかった。