パーフェクト・フィグ
#8."君も悪いね"




「…単心室症に対し、フォンタン手術を行います。
 よろしくお願いします」

「お願いします」


心室が一つしかない、先天性心疾患に対し、
上下大静脈を肺動脈につなげる手術。

東都南大学病院では頻回に行われており、
雅俊も何度も担当したことがある。

すみれの確かな技術と、人並み以上のスピード感で、
手術は予定時間の半分で終了した。

すみれが手術室に入ってきてすぐ、
雅俊は目も合ったし、挨拶もした。

だが、すみれはいつも通りだった。

いつも通り、ふらふらっとやってきて、
けろっとした顔でオペを始めた。

寧ろ気にしているのは自分だけのような気がして、
雅俊はどこか気に入らなかった。

そんな雅俊に気づいてか否か、
一緒に入っていた松島が言った。


「先輩、今晩行きますよね」

「今晩?」


松島が"飲みに行く"のジェスチャーをした。

雅俊は無視して、ハートセンターへ移動する
準備に取り掛かった。


「"すみれちゃん"も呼びましょうか?」

「だからなんでお前がその呼び方…」

「あ、むきになった」

「…」


雅俊は黙って輸液を絞った。



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