パーフェクト・フィグ
#9."いい意味で、な"
夏が本格的な終わりを告げ、
木の葉が色づき始めた今日この頃。
雅俊は初めて、病院と自宅以外の場所で
すみれと共に歩いていた。
「君とここにいるなんて変な感じだな」
すみれが、周囲の高いビルを見上げるその姿は、
まるで田舎から出てきた少女だった。
「宅直が被ること自体珍しいからな。
というか、お前が当直じゃないことが稀か」
当直が病院内での待機なのに対し、
宅直は自宅か、すぐに病院へ駆け付けられる
場所での待機という扱いになる。
「君が私をデートに誘うのも意外だけどね」
「お前が勝手についてきたんだろ」
「来てほしそうだったから」
「はいはい」
病院から少し離れた街にある、
いくつものブランド店が並ぶ大通り。
ここなら、いい感じの餞別が買えそうだ。
「誰にあげるの?」
通り過ぎる人の持つ物一つひとつを目で追うすみれが、
キョロキョロしながら言った。
「麻酔科の後輩だ。
この秋から北病院に出向が決まった」
「へぇー、随分と急なんだね」
「うちはいつもそうだからな」
弟同様に可愛がっていただけに、
ネクタイの一つでも送ろうかと思っていた。