パーフェクト・フィグ
#3."もう来るな"



その日の夜。

緩和ケア部門への挨拶を済ませ、
買い物をして帰宅すると
時刻は21時を回っていた。

雅俊は、手術以外の日は
緩和ケア部門で、余命の短い
終末期患者への疼痛コントロールを
することになっている。

どんな患者がいるのか見に行っていると
気づいたら今日が終わっていた。

雅俊は買い溜めたスーパー袋を抱えて
ソレイユのエントランスを過ぎた。

一人暮らしが長いため、
こうして夜のスーパーに
行くことも慣れたものだ。

エレベーターに乗ったところで
ポケットに入れていたスマホが震えた。

麻酔科のグループメッセージで
やり取りが行われている。


『これから小児心臓きます。
 来れる先輩いらっしゃいますか?』


下っ端からのメッセージだった。

小児心臓につける麻酔科医は少ない。

下の人間が1人で当直をしている際に
緊急手術が入れば、
こうしてベテラン医を呼ぶのが
今の麻酔科では暗黙の了解なのだろう。

雅俊が文字を打つタイミングで
東郷からの返信が出た。


『トイレしたら行きます』


便座に座る熊のスタンプが一つ。

雅俊は黙ってスマホをしまった。


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