『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

5 父と子の楽しい食卓ですわ!

「おとうさまっ!! おかえりなさいませっ!!」

「……」

 ハロルドは若干顔を引きつらせながら、

「ただいま、レックス。きちんと挨拶ができて偉いが……少し声が大きすぎじゃないか?」

「え……。でも、おかあさまが『ごあいさつは声をおおきくハキハキと!』って言っていたよ」

「それは……大事なことだが……」

 ハロルドは一拍だけ言葉に詰まって、

(あの女、余計なことを教えやがって)

 と、心の中でキャロラインに毒づいた。

「いいか、レックス? 元気よく挨拶をするのは良いことだが、時と場合というものがあるんだよ」

「ときとばあい?」

「そう。こういった晩餐の席では大声はスマートじゃないな。今がどういう状況で、貴族としてどういう行動が望ましいのか。そういうことも学んでいこう」

「はいっ!! おとうさまっ!!」

「だから声が大きい……」

「ふんっ、バッカみたい! あんな女のいうことなんて、きかなくていいのよ」

 ロレッタがキャロラインへの嫌悪感を隠さずに吐き出す。

「でも、ぼくは、おかあさまのおかげで、剣がじょうたつしたんだ!」

「そうなのか?」

 ハロルドは目を丸くする。キャロラインはダンスや乗馬は人並みにできるようだが、剣術を習ったことがあるとは聞いていない。

「あのね、おかあさまは、剣がうまくなるために『たいかん』をきたえなさいって言ってるんだよ」

「ほう、体幹か」

 なるほどとハロルドは膝を打つ。
 たしかに体幹はどんな運動にも共通する基礎そのものだ。それを鍛えることによって肉体の動きが安定し、剣を振るのにも鋭さが生まれる。

「うん! いつも、おかあさまに、たいかんを見てもらってるの。そしたらね、剣のフォームがよくなったって、剣のせんせいに、ほめられたんだよ!」

「そうか。それは良かったな。これからも頑張りなさい」

「はいっ!」

 キャロラインの意外にも立派な母親ぶりに、ハロルドはちょっと感心した。

(初夜で宣言したように、貴族としての義務は怠っていないようだな)

 彼もフォレット侯爵令嬢のプライドの高さや、苛烈な性格は噂で聞いていた。再婚が決まったときは、子供たちに悪影響がないかが一番の心配事だった。

 でも実際は、声の大きな変な女だった。面倒くさい女ではあるが、噂通りの嫌な女ではない。
 ……と、思う。
< 17 / 132 >

この作品をシェア

pagetop