『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

2 わたくしの悲しい過去ですわ!

 聖子(せいこ)は、埼玉生まれ東京育ち、出会った人は大体友達になるような、とても明るく元気な大学生だった。

「はぁ……。ムーンウォークが上手くできないんだよなぁ……」

 子供の頃から身体を動かすことが大好きだった彼女は、大学ではヒップホップダンスサークルに入っていた。
 再来週には大会が迫っている。でも、テスト勉強やアルバイトで、なかなか練習時間が取れないのが悩みだった。

「あっ! そうだっ!!」

 その日、彼女は素晴らしいアイデアを思い浮かべる。

「移動中は全部ムーンウォークにすれば、練習になるじゃん!」

 思い立ったが吉日だと、家への帰り道から早速実行することにした。

「じゃすっ、びーいっ! じゃすっ、びーいっ!」

 右足のつま先を立てて、流れるように左足のかかとを後ろに下げる。無重力空間を歩いているイメージを意識して。

 すいすいすーーい、っとムーンウォークで歩道を進んで行く。

(う〜ん、アスファルトだとちょっとやり辛いなぁ……)

 ざらざらした感触に少し苦戦しつつ、自宅までの道のりを進む。しばらくすると大分コツを覚えてきた。
 順調に家に向かっていると――、

「危ないっ!!」

 衝撃波のような大声が、聖子の耳を揺らした。

「ほぇ……?」

 びっくりして振り返ると、彼女の目の前には岩の塊みたいな大型トラックが、

 今。

 ――ドンッ!!

「ポォォォオオーーーーーーーーッ!!」

 これが、聖子の最期だった。


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