『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

13 乳母の陰謀ですわ!

「今日はわたくしがお子たちのお世話をするので、あなたは休んでいいわ」

 朝から乳母を呼び出して、キャロラインは笑顔で言った。

「で、ですが……」

「聞けばあなたはあの子たちが生まれてから、ほとんど休みなく側に付いているらしいわね。たまには、自分の家族にも時間を割いてちょうだい」

「……承知いたしました」
 
 

 どすどすと怒りの孕んだ足音が廊下に響く。この音が聞こえると、メイドたちはいつ八つ当たりをされるか分からないので、慌てて隠れるようになった。

 バーバラ・スミス伯爵夫人は焦っていた。
 今度来た新しい公爵夫人は、今も屋敷でふんぞり返っているからだ。

 キャロラインに対して、弟のレックスは完全に陥落。
 もとから頭の弱い――もとい、かなり純粋な子供だとは思っていたが、こうもあっさり継母の手に落ちるとは。

 姉のロレッタは継母を追い出そうと頑張ってはいるものの、まだ幼いのもあって、すぐに絆されてしまう。最近は意地悪というよりも、継母の気を引きたくて嫌がらせをしている感じだった。

(このままでは、不味いわ……)

 今のままだと、キャロラインが公爵夫人として屋敷に定着してしまう。そうなれば、乳母として大きな顔で屋敷で過ごせないし、計画も台無しだ。

 過去の妻たちは、ロレッタを巧妙に操り、罪を着せて追い出した。
 フォレット侯爵令嬢は、これまでの妻たちより素行が悪いと評判だったので、簡単に追い出せると思っていた。

 その後は、己の姪を後妻にねじ込んだら計画の完了である。莫大な財産を持つハーバート公爵が親戚になれば、スミス伯爵家も一生安泰。死ぬまで優雅に暮らせるのだ。

 しかし、最近はキャロラインがじわじわと屋敷を侵食していっているのを感じる。
 彼女は子供たちの教育に口を出し、今度は予算も管理しようと息巻いていた。

 先日、公爵夫人から子供たちに譲渡した予算の使い道を尋ねられたときは、さすがに肝が冷えた。
 念のため準備していたダミーの帳簿を見せて事なきを得たが、あの様子だといつ権利を取り上げられるか分からない。

(こうなったら……強硬手段しかない。早くあの女を公爵家から追い出さなければ……!)


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