『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

14 お断罪ですわ!

「ロレッタ! レックス!」

 キャロラインは慌てて席を立つ。声をかけても二人ともろくに返事もできず、小さく(うめ)き声を上げているだけだった。
 もっと詳しく様子を見ようと、顔に近付いて肩を軽く叩く。

「うっ……!」

 どちらの子の息からも、鼻にツンと尖ったものが漂ってくる。

(この匂いは……アルコール……!?)

 キャロラインの心臓がドンと強く跳ねた。みるみる青白い顔になる。
 あれは自分の思い違いだったのだ。
 乳母の毒薬は、はじめから自分ではなく――子供たちへと向けられたものだ。

(でも、なぜ……? 子供たちにもしものことがあったら、自分の仕事も失うことに……)

 ハッと、弾かれたように我に返る。今はそれどころではない。子供たちの救護を優先せねば!

「誰かお水を持ってきてちょうだい!」彼女は大声で叫ぶ。「大量のね! 医者も呼んで! 早くっ!!」

 奥様の切羽詰まった金切り声のような指示に、メイドたちはただごとではないと急いで厨房へ向かう。その間もキャロラインは、冷ましたお湯を丁寧に子供たちの口へ注いでいた。

 これは、急性アルコール中毒だ。まだ肉体が発展途中の小さな二人は、微量の酒でも命取りだったのだ。



「どうやら、毒殺は失敗したようだな」

 その時、キャロラインの頭上で張りのある低音が響いた。
 ハロルドだった。彼は険しい顔でバーバラを見ていたが、すぐに()()に気付いた。

「お、おいっ! ロレッタ! レックス! なぜ二人が……!」

 父は血相を変えて、飛び付くように子供たちに駆け寄った。


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