『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

17 伝説のおドラゴン様ですわ!

「いたっ! てか、アツぅっ!」

「おい、大丈夫か? 誰か、水を!」

 メイドが慌てて差し出した水を、ハロルドがハンカチに浸して妻の頬にそっと押し当てた。

「ありがとうございます。ヒリヒリですわ」

「ふんっ! 我を丸焼きにしようとするからだ。けしからん」

 キャロラインのすぐ背後から男の声が聞こえた。それは威厳がありそうで、どこか偉そうな声音だった。

「えっ……!?」

 彼女が驚いて振り返ると、

「ト……トカゲが空を飛んでいますわ……!」

 さっきまで焼き網の上で横たわっていたはずの大トカゲが、ぱたぱたと翼を広げて浮遊していた。
 常識ではあり得ない様子に、ハーバート家の全員が硬直する。誰もがあんぐりと口を開けて、目を白黒させていた。

 トカゲに翼があって、宙を飛んでいて、しかも喋っている。こんなの、おとぎ話でしか聞いたことがない。

 黄金の瞳が、キャロラインたちをギロリと睨み付けた。
 眠っている時は気付かなかったが、鋭い牙に、太くて長い爪。猫並みのサイズの個体だが、獰猛さをぎゅっと凝縮しているような威圧感があった。

「馬鹿者」

 ――ぺちん!

「ぎゃんっ!」

 再び、トカゲがキャロラインの頬を尻尾で引っ叩き、彼女は大きく()()った。
 今度は軽くくすぐる程度だったが、彼女は常にオーバーリアクションの面倒くさい夫人なのだ。

「我はトカゲではない」

「えぇっ!? 空飛ぶおトカゲじゃあありませんの?」

「トカゲは空を飛ばぬ。もっと思考を広げるのだ、小娘」

 う〜〜〜ん、とキャロラインがアドバイス通りに頭を捻っていると、

「ま、まさか……!?」

「ぼく、わかっちゃったー!」

 父と息子が、同時に声を上げた。

「えっ!? お二人とも、もう答えが分かったんですの?」

 キャロラインは弾かれたように二人を見る。

「にわかには信じられないが……」と困惑顔のハロルド。

「こんなの、かんたんだよ!」と自信満々のレックス。

「ほう。男どもは理解が早いな。――で、どうなんだ小娘? 我の存在を当ててみよ」

 二人と一匹の視線がキャロラインを見据える。目に見えないプレッシャーが彼女を焦らせた。

「ちょ、ちょっと、お待ちくださいまし! わたくし、おクイズは苦手なんですの〜」

 と、彼女がまだうんうんと考えていると、

「でんせつのドラゴンでしょ? えほんでよんだわ」

 ロレッタの冷ややかな声が、先に答えを言ってのけた。

< 65 / 132 >

この作品をシェア

pagetop