虹橋の先へ
虹橋
ハナから散々お小言をくらってから、一週間。
オーリーは、変わらず宿の手伝いに勤しんでいた。
もうしばらくは来られないかもしれないと思ったのに、あれからすぐ平穏は戻ってきた。
ほっとしたのと、ちょっと呆れるのと。――ニールに会えない日が戻り、寂しいのと。
あの一日が夢だったみたいに、同じ生活。
一つだけまだ慣れないのは――。
「オーリー、ちょっとこっち手伝ってくれるかい」
「はーい」
無意識に手を後頭部に伸ばし、苦笑する。
もう、仕事に邪魔になるほどの長さはない。
なのに、ついくせで括ろうとしてしまう。
頬をくすぐる毛先が、何となく照れくさいのはロイがあんなことを言ったからだ。
・・・
『オーリー、本当にいいの?もう少し長めに残して、上手く隠すこともできるかも』
『いいんです、ジェイダ様。何だか、不揃いなのは落ち着かなくて。どうせ、伸びますから』
本当はやっぱり、名残惜しいけれど。
どうしてだろう、鋏を見ると、母の顔が浮かぶ。
自分とお揃いの髪を撫でるのに、愛しそうに――それでいて、どこか申し訳なさそうな表情。
『……大丈夫かな。僕、兄さんに殺されないでいられると思う?』
『……………えと。私からも謝っておくけど』
自分の意思で切ってもらうのだし、第一こうなった原因は自分なのに。
けれど、ジェイダはなぜか否定することなく。テーブルに置かれた鋏を手にして、本当にいいのかと目で尋ねてくる。
『~~っ、やっぱり、ちょっと待った。僕がやるよ。いいかな、オーリー。……っていうか、多分その方がいいと思う』
『え?もちろん、構いませんけど。叔父様が嫌でなければ』
『嫌に決まってるよ、女の子の髪を切るなんて……。でもね、如何にお姫様でも、不得意なことがあるからさ』
首を傾げたが、特に異論はない。
苦々しげに整えてくれるロイの横で、ジェイダは唇を尖らせていたけれども。