不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

35.さあ、家に帰りましょう

 ヴィンセント様と並んで、王宮を歩く。前に来た時と同じように貴族たちのひそひそ声が聞こえていたけれど、少しも気にならなかった。

 隣にはヴィンセント様、すぐ後ろには姿を消したままのネージュさんたち。大切なものは、全部ここにあるから。彼らがどれだけ素敵なのか、わたしは知っているから。

「……どうした、上機嫌だな」

「分かりますか? 幸せだなあって、そう思ってたんです」

 本当は、ヴィンセント様と手をつないで歩きたかった。でもここは王宮の中なので、さすがに我慢しなくてはならない。

 軽やかな足取りで進み続けて、とうとう謁見の間の前にたどり着いた。扉の両脇に立っている兵士たちが、ゆっくりと扉を開けてくれる。

 わたしとヴィンセント様が扉をくぐり、その後ろからネージュさんもやってきている、はず。みんな見えずの霧の中にいるので見えないけれど、くすくす笑いが聞こえるし。

 そうして陛下は前と同じように満面の笑みで、わたしたちを出迎えてくれた。

「エリカよ、ヴィンセントから聞いたぞ。お主は夫の危機に、幻獣たちと共に駆けつけた。そうして、南の国との戦を止めてくれた。こたびのお主の働き、感謝する」

 陛下はやはり優しいおじいちゃんのような目つきで、わたしにそう声をかけてくれた。

 嬉しいのとおそれ多いのとで、あわててしまって言葉が出ない。どうにかこうにか、ありがとうございます、とだけ答えることができた。

 小さく首を振った拍子に、隣のヴィンセント様が目に入る。彼は無言で、穏やかに笑いかけてくれた。その表情に、緊張がふっとほぐれる。

「ところで、幻獣たちはどこに来ておるのじゃろうか。わしはそこそこ長く生きてはおるが、まだ一度も幻獣を見たことがない」

 どことなくそわそわしたような、期待に満ちた目で陛下は尋ねてくる。ヴィンセント様が笑顔のまま、ゆったりと答えた。

「ここに来ております、陛下。彼らの持つ特殊な力で、姿を消しているのです」

「そうか、よければ姿を見せてはもらえぬかの?」
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