不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

10.花畑の中で、二人お喋りを

「……雪狼は、どこへ行ってしまったのだろうか……」

「あの、後で迎えに来るそうです……」

 眉間にしわを寄せたヴィンセント様に、それだけを答える。仲良くしろ、という言葉については伏せて。

 ネージュさんのおかげで、ヴィンセント様と少しは話せるようになった。けれどヴィンセント様は相変わらずそっけない。いきなり二人きりにされて、仲良くしろと言われても……ちょっと難しい。

「ならば、迎えに来るまで待つしかないか」

 仕方なくわたしたちは、花畑に腰を下ろした。礼儀正しく、距離を取って。もっと近づきたいのになと、そう思いながら。

 お日様は温かくて、鳥の声が聞こえる。沈黙にも慣れたし、こうやって一緒にいられるだけでも嬉しい。

 けれど、でも……どうせなら、何か話したい。せっかくこんな素敵な場所にいるのだし。

「……お花、綺麗ですね」

「ああ」

 勇気を出した問いかけに返ってきたのは、そんな短い返事だけ。うう、やっぱりうまくいかなかった。でもめげない。

 必死に次の言葉を探していると、今度はヴィンセント様が口を開いた。

「あの白い花は、干してせんじると良い香りの茶になる」

 そんな言葉が返ってきたことに驚きつつ、大急ぎで問いかける。話をつながないと。

「ヴィンセント様は、そのお茶を飲んだことがあるのですか?」

「……ああ。子供の頃はよく飲んでいた。茶葉など買う余裕はなかったから」

 それを聞いて、彼が元々平民だったことを思い出す。というか、言われるまで忘れていた。それくらい、ヴィンセント様は立派で堂々としていたから。

「子供の頃のヴィンセント様って、どんな方だったのでしょう?」

「……今と、さほど変わらない」

「あの、でしたらヴィンセント様のご両親はどんな方なのでしょうか。……わたしにとっても義理の両親にあたる方々なのですし、できるなら一度、ごあいさつしたいなあって」

「もういない」

 そっけない返事に、一気に血の気が引く。ど、どうしよう。聞いたらいけないことだったのかも。

 無言であわてふためいていると、ヴィンセント様はかすかに苦笑した。

「父の顔は知らない。母は病弱で、俺が子供の頃に死んだ。そうして一人になった俺は軍に入った。それだけだ」

「……はい」

 それは伯爵家の娘として生まれ、何一つ不自由なく生きてきたわたしには、想像もつかない人生だった。どんな言葉をかければいいのか、分からない。

 黙ったまま、そっとうつむいた。泣きそうになっているのを見られたくなくて。
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