不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

13.わたしの思いを言葉に乗せて

「……そうだな。この機会に、話しておくか」

 そう言うと、ヴィンセント様はわたしを連れて王宮の裏のほうに向かっていった。

 やがて、静かな中庭にたどり着く。そこでようやく、ヴィンセント様は足を止めた。それからゆっくりと、わたしに向き直る。

「俺は、剣の腕一つでここまでやってきた。ただの平民から騎士へ、そして爵位までいただいてしまった」

「それは、ヴィンセント様がこの国を守ってくださったからです。ですから、ごほうびをもらうのは当たり前だと」

「褒美、か。どれもこれも、俺には過ぎたものばかりだ」

 どこか自嘲するようにつぶやいて、ヴィンセント様は続ける。

「俺には剣しか取り柄がない。本来、こんなところにいる資格はないんだ」

 そんなことありません、と言いかけたわたしを、ヴィンセント様は手で制する。とても真剣な、ひどく悲しそうな顔で。

「俺の周りにはいつも、ああいった悪意がつきまとっている。陛下は俺のことを買ってくださっているし、共に戦う兵士たちとも、信頼関係が築けているとは思う。だが、貴族は……」

 苦しげに、彼は言葉を切った。

「……貴族たちは、俺のことを疎ましく思っている。先ほどのような丸聞こえの陰口など、いつものことだ」

 彼の言葉に、思い出す。彼のもとに嫁いでくる直前に聞いた、友人たちの噂話を。

 ヴィンセント様は剣の腕が立ち、異例の出世を遂げた。そのせいか、貴族を見下している。

 違ったんだ。逆だ。ヴィンセント様を疎ましく思った貴族たちが、ヴィンセント様をおとしめるような噂を流したんだ。

「だから、君は俺のそばにいないほうがいい。俺のそばにいれば、君は不幸になる。あんな噂はまだ可愛いものだ。様々な悪意が、いずれ君にも向けられる」

「そばにいないほうが、って……わたしは……」

「……いい加減、はっきり言ったほうがいいのだろうな。……俺は今ここで、君を離縁する」
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