不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

19.みんな仲良しが一番です

 そんな話し合いの次の日。屋敷の中庭に、使用人たちが勢ぞろいしていた。みんなちょっと緊張した顔だ。

 彼らと向かい合うようにして、ヴィンセント様とわたしが立っている。

「みな、楽にしていてくれ。今日は、この屋敷で起こっているおかしな現象の正体について、みなに知ってもらおうと思う」

 そう言ってヴィンセント様は、近くの長椅子に置かれていた大きな鏡を掲げた。

「それらの現象は、この屋敷の近くに棲みついている三頭の幻獣たちのしわざだ」

 幻獣という言葉を聞いて、使用人たちがざわざわし始める。しかしヴィンセント様はお構いなしに、説明を続けた。ちょっぴり緊張しているのか、余裕がないみたい。

「まずは、雪狼。鏡を通り抜けることができ、体の大きさも自在に変えられる。おまけに、鍵の掛かっていない扉を開けることさえできる。だから時折、屋敷の中をうろついているんだ」

 その言葉と同時に、ヴィンセント様が手にした鏡からネージュさんがぬるんと飛び出してきた。いつも屋敷の中をふらふらしている時より、もうちょっと小さくて可愛い。

 使用人たちから驚きの声が上がる。しかしそれはすぐに、感嘆のため息に変わっていた。

「まあ……幻獣って、こんなに小さいの?」

「可愛い……」

 長くてふわふわの白い毛が可愛いからだろう、女性たちはうっとりとした目でネージュさんを見つめていた。確かにあの大きさのネージュさんは、毛の長い犬猫のようで可愛いし。

 しかし地面に降り立ったネージュさんは、伸びをしながら一気に大きくなる。わたしとヴィンセント様を軽々乗せられる大きさにまで。

「えっ!?」

「ひいっ!」

 今度はそんな悲鳴が、あちこちから上がる。明らかにおびえている使用人たちに、ヴィンセント様は淡々と説明を続けた。

「見ての通り、普段はこれくらいの大きさだ。ただ気性は大変穏やかで、人を襲うことはない」

 ふふん、と得意そうに顔を上げるネージュさんに、また使用人たちが後ずさる。ヴィンセント様は困ったように小さくため息をついてから、また口を開いた。

「次は、翼馬。空を駆ける翼を持ち、人の目をくらませる霧をまとうことができる。ただ時々、うっかり霧をまとい忘れるようだ。たまに、中庭や屋敷の裏手を歩いているな」

 そう言い終わったとたん、空からスリジエさんが舞い降りてきた。その美しい姿に、また小さく歓声が上がる。

「何、あれ……すごい……」

「とっても綺麗だな……」

 うっとりとした視線を投げかけられて、スリジエさんも悪い気はしていないようだった。翼をひらめかせ、とても優雅に地面に降り立っている。

「最後は、草鼠。……正確にはネズミではないようだが、他に呼びようがない。草地を通り抜けて移動する。そして、自分の意志で植物を生やすことができる。中庭を気に入ってしまって、よくその辺りをうろついている」

 説明の途中で、トレがヴィンセント様の足元の芝生からにょっきりと生えてきた。使用人たちが困惑の目でトレを見つめている。

 トレはまったく気にした様子もなく、小さな前足を上げてとんとんと地面を叩いた。するとすぐに、そこから美しいユリが生えてきた。花びらがフリルになった、珍しいものだ。

「わあ、素敵!」

「見たことのない花だな」

 ユリの美しさとトレの愛らしさに、使用人たちの肩の力がちょっと抜けたようだった。その目から、恐怖の色が消えつつあった。

「見ての通り、彼らは特殊な能力を持っている。だが同時に高い知性と理性をも備えているのだ」

「……お言葉を返すようですが、旦那様。どうしてそう言い切れるのでしょうか」

 そう言って、執事長が進み出る。年老いてはいるけれど心身ともに健康そのものの彼は、背後の使用人たちを守るかのようにがっちりとした胸を張っている。

 ヴィンセント様は一瞬ためらって、その言葉に答えた。

「エリカは、彼らと話すことができる。実のところいまだに信じがたいが、まぎれもない事実だ」
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