不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

25.強いわたしと弱い彼

 ひとしきり泣いた後、わたしはヴィンセント様と一緒に幻獣のみんなのところに顔を出した。みんな早い帰宅に驚きつつも、大喜びしてくれた。

 この屋敷には、幻獣がたくさんいる。でもそれは、とんでもなく珍しい、まずありえない事態なのだ。

 だからこそ、お化け屋敷だなんて噂が立ってしまった。そしてわたしも、両親や友人の誤解を正さなかった。正直に言ったところで、まず信じてもらえないだろうから。

 そんなもどかしい思いを飲み込んだまま、みんなと一緒に大はしゃぎする。そうして夕食も済み、そろそろ寝ようかという時間になった頃。

「エリカ、少し話せるか」

 珍しく、ヴィンセント様がわたしの部屋にやってきた。普段は、わたしがヴィンセント様の部屋に押しかけてばかりなのに。

 お互い寝間着だけれど、夫婦なのだし恥ずかしくない。……本音を言うと、ちょっと恥ずかしい。

「はい、大丈夫です。どこで話しましょう? ここでもいいですよ」

「ならば、言葉に甘えさせてもらおうか。……俺の部屋には大きな鏡があるから、な」

 その言葉に、きょとんとしつつもうなずく。わたしも大きな鏡を持っているけれど、それはこの部屋ではなく奥の寝室にある。ヴィンセント様は、ネージュさんの盗み聞きを気にしているのだろう。

 部屋に置かれたふかふかの長椅子に、向かい合って座る。

「……ひとつ、聞きたいんだ。実家に帰っている間に、何かあったのだろうか。その、言いたくないのなら、無理に言わなくてもいいが」

 前に二人きりで話した時とは違って、ヴィンセント様は座るとすぐに口を開いた。どうも、昼間からずっと気になっていたらしい。

 ちょっとだけためらって、そのままを話すことにした。つっかえながら、思い出しながら、少しずつ。

「……それで、わたし悔しくて……みんな、不確かな噂ばっかり信じていて、わたしが今不幸なんじゃないかって決めつけて」

「人は噂に踊らされるものだ。それを嘆くことはない」

「でもやっぱり、悔しかったんです。それで、一晩だけ実家で休んで、すぐに戻ってきました」

 離縁を勧められたことは、黙っていた。両親がそんなことを考えていたと知られたら、ヴィンセント様の心がまた揺らいでしまうかもしれない。

「今のわたしの居場所は、ここです。あの屋敷はわたしが生まれ育ったところですけど、でも……わたしはあそこではなく、ここに、ヴィンセント様のそばにいたいって思いました。それに気づくことができて、よかったです」

 だから代わりに、そう言った。胸の中によどんでいるもやもやに負けないように、前向きな思いだけを声に乗せる。

 するとヴィンセント様は、青灰色の目を切なげに細めて、まっすぐにわたしを見た。
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