不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした
第3章 わたし、強くなりたい
27.赤文字の封書、再び
わたしとヴィンセント様、それに幻獣たちの距離はどんどん近くなっていた。もう、みんなで一つの家族のようなものになっていた。
とっても幸せで、穏やかな日々が過ぎていった。けれど、その幸せは、あまりにもあっけなく吹き飛んでしまった。
わたしの手の中には、王宮からの手紙が一通。ヴィンセント様の名を記したあて名は、赤いインクで書かれていた。また、出陣だ。今度はどこに行くのだろう。
ヴィンセント様は、無言で手紙の中を見せてくれた。それをじっと見つめながら、呆然とつぶやく。
「……南の大国が、攻めてきたんですか……」
「ああ。前の出陣の時とは比べ物にならない、大掛かりな戦になるだろう。そして俺は、総大将の任をおおせつかった」
前の時は、西の国境での小競り合いだった。隣国の兵が、こっそりと国境を越えて偵察に来ているだけだった。
あちらは戦うための部隊ではなかったし、そもそも数が少なかった。だから決着はあっという間についていた。ヴィンセント様の部隊と遭遇するや否や、敵兵はさっさと逃げ出したのだそうだ。
でも今度は違う。双方とも大規模な軍を編成して、正面からぶつかり合うことになる。南の大国は、以前から我が国を属国にしようと狙っていた。どうやら、いよいよ本気を出してきたらしい。
「……どうあってもここで敵軍を圧倒し、追い返さなくてはならない。我が国に攻め込む気をそぐためにも」
前の時と違って、ヴィンセント様の表情は硬い。それだけ、状況がひっ迫しているのだろう。軍のことも戦のことも知らないわたしにも、そのことはすぐに分かった。
「今度はしばらく、戻れないだろう。寂しい思いをさせるかもしれないが……」
「だ、大丈夫です。ネージュさんたちもいてくれますし……それに、待つのは騎士の妻のつとめですから」
泣きそうになるのをこらえながら、精いっぱい力強くうなずく。どこからか現れたフラッフィーズをにぎりしめて。
まるでわたしを心配しているかのように、フラッフィーズが次々と空中に姿を現し、わたしの足元に寄り添ってくる。
「……すまない。俺も、できることならここを離れたくない。だが……俺は必ず、君の待つこの屋敷に戻ってくる。だから、それまでは耐えていてくれ」
既に足首までフラッフィーズの群れに埋まっているわたしに、ヴィンセント様が注意深く近づいてくる。そうしてそのまま、わたしをぎゅっと抱きしめた。
「急いで出陣の準備をしなくてはならない。けれど少しだけ、こうさせてくれ。君の温もりを覚えておきたい」
体中で感じる優しい声に、ぽろりと涙がこぼれ出た。目を閉じてヴィンセント様にぴったりと寄り添いながら、わたしはただ静かに涙を流し続けていた。
とっても幸せで、穏やかな日々が過ぎていった。けれど、その幸せは、あまりにもあっけなく吹き飛んでしまった。
わたしの手の中には、王宮からの手紙が一通。ヴィンセント様の名を記したあて名は、赤いインクで書かれていた。また、出陣だ。今度はどこに行くのだろう。
ヴィンセント様は、無言で手紙の中を見せてくれた。それをじっと見つめながら、呆然とつぶやく。
「……南の大国が、攻めてきたんですか……」
「ああ。前の出陣の時とは比べ物にならない、大掛かりな戦になるだろう。そして俺は、総大将の任をおおせつかった」
前の時は、西の国境での小競り合いだった。隣国の兵が、こっそりと国境を越えて偵察に来ているだけだった。
あちらは戦うための部隊ではなかったし、そもそも数が少なかった。だから決着はあっという間についていた。ヴィンセント様の部隊と遭遇するや否や、敵兵はさっさと逃げ出したのだそうだ。
でも今度は違う。双方とも大規模な軍を編成して、正面からぶつかり合うことになる。南の大国は、以前から我が国を属国にしようと狙っていた。どうやら、いよいよ本気を出してきたらしい。
「……どうあってもここで敵軍を圧倒し、追い返さなくてはならない。我が国に攻め込む気をそぐためにも」
前の時と違って、ヴィンセント様の表情は硬い。それだけ、状況がひっ迫しているのだろう。軍のことも戦のことも知らないわたしにも、そのことはすぐに分かった。
「今度はしばらく、戻れないだろう。寂しい思いをさせるかもしれないが……」
「だ、大丈夫です。ネージュさんたちもいてくれますし……それに、待つのは騎士の妻のつとめですから」
泣きそうになるのをこらえながら、精いっぱい力強くうなずく。どこからか現れたフラッフィーズをにぎりしめて。
まるでわたしを心配しているかのように、フラッフィーズが次々と空中に姿を現し、わたしの足元に寄り添ってくる。
「……すまない。俺も、できることならここを離れたくない。だが……俺は必ず、君の待つこの屋敷に戻ってくる。だから、それまでは耐えていてくれ」
既に足首までフラッフィーズの群れに埋まっているわたしに、ヴィンセント様が注意深く近づいてくる。そうしてそのまま、わたしをぎゅっと抱きしめた。
「急いで出陣の準備をしなくてはならない。けれど少しだけ、こうさせてくれ。君の温もりを覚えておきたい」
体中で感じる優しい声に、ぽろりと涙がこぼれ出た。目を閉じてヴィンセント様にぴったりと寄り添いながら、わたしはただ静かに涙を流し続けていた。