【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

2.

 ゲイル様が約束を守ってくれたおかげで、わたしやエミュリアにまつわる噂が流れることはなかった。

 とはいえ、エミュリアの髪留めを見るたびに、わたしの心は塞ぎ込んでいく。あれ、本当はわたしのだったのになぁって。すごく気に入っていたのになぁって。


(やめやめ。こんなこと、日常茶飯事でしょう?)


 凹んでいたら時間がもったいない。
 こういうときは街に新たなときめきを探しに行くに限る。

 放課後、寮やタウンハウスへ帰るみんなと別れ、わたしは一人、王都へと繰り出した。

 王都には全国各地からいろんなものが集まる。繊細な色付きガラス細工も、美しく絵付けされた陶器類も、シルクの布も、それらで作られたドレスも、惚れ惚れするほど鮮やかな刺繍の施されたベールやスカーフも、丁寧に仕立て上げられたカバンも、草花で染められた色とりどりの染紙も、ブックカバー等の小物なんかも。素敵なもので溢れていて、見ているだけで幸せになれる。

 小さい頃は『待っていれば商人のほうから品物を屋敷に持ってきてくれるのに』ってよくお説教された。だけど、わたしはただ買い物ができればいいというわけじゃない。

 わたしは心がときめくものを自分で探して、見つけて、それを大切に生きていきたい。別に高価な品じゃなくてもいいから、自分が心から『好き』だと思えるものに囲まれて暮らしたい。それがわたしの生きがいであり、ポリシーだ。


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