【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

3.(END)

 長期休暇に入る前日のこと、今夜は社交の練習を兼ねてパーティーが開かれている。男性も女性も、おろしたてのドレスや夜会服に身を包み、とても華やかな雰囲気だ。

 エミュリアたちと一緒に会場に入り、ぐるりとなかを見回す。ゲイル様はまだ会場には入っていないらしい。わたしは小さく息をついた。


(今夜、ゲイル様をダンスに誘ってみよう)


 女性からダンスに誘うなんて、あまり褒められたことではない。けれど、おしとやかに、控えめに、壁の花に徹するなんてわたしのポリシーに反する。ただ待っているなんて性に合わない。ほしいものは自分の手で掴み取るべし、だ。

 彼に少しでも可愛いと思ってもらえるように、ドレスだってとびきりの一着を選んだ。エミュリアとかぶらないように、侍女たちにもいろいろと協力してもらったし、彼の髪や瞳の色をさりげなく取り入れた。それがゲイル様の瞳にどんなふうに映るかはわからないけれど。


「ねぇ……ウィロウは最近、ゲイル様と仲がいいわよね」


 そのとき、エミュリアがおもむろにそんなことを切り出した。
 彼女は今、わたしが今夜のために用意しておいたダミーのドレスに身を包んでいる。狙いどおりに服装がかぶらなかったので、わたしは内心ホッとしていた。


「え? ……と、仲がいい、ように見える?」


 実際のところはわたしが一方的に懸想をしているだけ。もっとも、わたしは教室でもいつも彼を視線で追っているし、話しかけるタイミングをうかがっている。声をかけられたら嬉しくて、そのまま必死に話を長引かせて、ゲイル様はそんなわたしのとりとめのない話に付き合ってくれている。それを仲がいいと形容されるなら――とても嬉しい。わたしにも少しぐらい可能性があるんじゃないかって、そう思えるから。


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