【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

2.

 アメリーは翌日、王都にある神殿を訪れていた。

 お祈りをしたり、神官たちと一緒になって礼拝堂を磨くことは、子どもの頃からの彼女の日課だった。それに加えて、身寄りのない子どもたちに勉強を教えたり、貧しい人々に寄付をするといった慈善活動が現在のアメリーのライフワークとなっている。


(それにしても、昨日はすごく幸せだったな……)


 幸せな余韻にひたりながら、アメリーはうっとりとため息をつく。セヴランを一目見られるだけでも幸せなのに、声までかけてもらえたのだ。感謝しなければ罰が当たる。


「今日のアメリー様はなんだかすごく嬉しそうだね?」

「え? そ、そうかな?」


 小さな子どもにまでわかってしまうほど浮かれているのだろうか? アメリーは頬に手を当て、表情をグッと引き締め直す。


(いけない。セヴラン様とあんなにお話することは、もう二度とないに違いないもの。きちんと地に足をつけて生活をしないと)


 そもそも、好きな人に会うためにお茶会に通うという行為は、決して褒められたものではないし、きちんと現実に向き合わなければならない――はずなのだが。


「――こんにちは、アメリー嬢」

「え……?」


 背後から声をかけられ、アメリーはドキッとする。この声、雰囲気――まさかとは思いつつ振り返ると、そこにいたのは彼女が思い描いた通りの人物だった。


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