御曹司は優しい 音色に溶かされる

離婚そしてボストンへ

そこで千隼を見つけた。

今日はラフな格好をしている。

仕事ではないんだろう。

声を掛けようと足を踏み出したところで、
一歳くらいの男の子を連れた女性が千隼に
近づいて行った。

千隼はソファーから立ち上がって
その男の子に手を伸ばした。

その子の顔を見てゆりえは唖然とした。

千隼にそっくりだ。

前に、西條の実家で見せてもらった千隼の
子供の頃の写真にそっくりな男の子を、
千隼は嬉しそうに抱き上げている。

背の高い千隼に、高い高いをしてもらって
男の子はキャッキャと嬉しそうに笑っている

母親だろう知的な美人さんは、その隣で
優しく微笑んでいる。

そういうことかと、ゆりえは納得した。

千隼たち親子三人を見ながら涙を
止めることができないでいた。

周りの人に感づかれては千隼に見つかって
迷惑をかける。

ゆりえは急いでその場を後にした。

「ねえねえ 今の女の人泣いてたよね」

その声は千隼にも届いたが、振り返った
千隼にはゆりえの姿は見えなかった。

ゆりえはそのまま区役所に行って離婚届を
もらってきた。