元彼パイロットの一途な忠愛
2.不安に負けた過去

美咲が大翔を認識したのは、高校三年生の頃。

大学生だった兄もまだ実家に住んでいて、父が休みのたびにパイロットを志す友人たちが話を聞きに来る。さながらOB訪問の様相を呈していた。

リビングで飛行機の型式や操縦技術に関する話を楽しそうに聞いている彼らをもてなすのが美咲の役目。お茶を出すたびに、シスコン気味の篤志が『お前ら、絶対美咲に手を出すなよ』と牽制するのが恥ずかしかったのを覚えている。

その友人の中に、大翔はいた。

『君が篤志自慢の美咲ちゃんか。はじめまして、各務大翔です』

微笑む大翔の端正な顔立ちにも息をのんだが、なによりも印象的だったのは彼の声だ。低いけれど威圧感は全くない。甘く響く優しい声は、これまで聞いたことのあるどんな声よりも魅力的だった。

真っ赤になって会釈しかできなかった美咲に呆れることなく、それ以降も家に来るたびに声を掛けてくれる。そんな大翔に、美咲はいつしか惹かれていった。

付き合い始めたのは美咲が大学へ進学し、大翔が晴れてサクラ航空に入社した年。彼から告白された時は、飛び上がるほど嬉しかった。

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