燃ゆる熱愛〜再会したエリート消防士に双子ごと守られています〜

一、

 私、小早川桃花が勤める洋菓子店のショーケースには、今日も彩り鮮やかなケーキが並んでいる。

 店名『boîte à bijoux(ポワッタビジュー)』は、フランス語で〝宝石箱〟を意味し、そのイメージを再現した白壁に金と青の装飾を施した外観はとてつもなく可愛い。内装はチョコレートを彷彿させるモロッカン柄の茶色を基調としていて、シンプルにまとめられがちなパティスリーとしては珍しく、他店とはひと味違っている。

 製菓学校を卒業した二十一歳から、こだわりがぎゅっと詰まったポワッタビジューでパティシエとして働くようになって五年が経った。

 ようやく暑さが和らいで、心地よい秋風が肌をくすぐるようになった十月中旬。これくらいからケーキは徐々に売れ始め、クリスマスシーズンにピークを迎える。

 それと同時にスタッフが体調を崩しやすい時期のため、心配性の私はどこからか風邪などを拾ってこないように引きこもりがちになる。

 つい三日前にも主婦のパートがインフルエンザにかかり、今週いっぱい休みになった。

 華やかな雰囲気に反してパティスリーでの仕事は重労働だ。

 三十四歳の男性店長はとても優しいし、スタッフ同士も仲がよく人間関係はいいと思うのだが、長く続けられない人が多く人手はずっと足りていない。

 十六時を過ぎた頃、店舗の方が慌ただしくなり、厨房での作業を店長に任せて表に出る。そう広くない店内には元気いっぱいの子どもふたりを連れた女性と、仲睦まじい様子の老夫婦、背が高くて体躯のいい男性ひとりがいた。
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