離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
2. 求めたのは理想ではなく side千博
午前の会議が終わり、一人会議室に残った千博はここ最近で一番の大きなため息をつく。
ずっとトラブル対応に追われていて休む暇もなかったが、ようやく今日で一段落ついた。
メールの送信先間違いという部下が犯した初歩的で重大なミスは、他社をも巻き込んだ大騒動に発展していたが、結果的には新規事業の投資に繋がり、上層部も納得する結果となった。
心配事が一つ消えて安堵するも、千博の心はそれだけでは晴れない。一番気がかりなことがまったく解決していないのだ。晴れるわけがない。
今日の美鈴の様子を思い出して、今度は小さくか細いため息をこぼす。
美鈴に触れてしまったあの日以来、己の中のおかしな衝動をなくそうと彼女に近づきすぎないよう注意していたが、いつの間にか彼女の方が千博と一定の距離を保つようになった。あからさまな距離の置き方ではないが、あきらかに何か違う。少なくとも千博に向ける表情が以前と変わってしまった。
初めは偽りの愛を演じていたあの頃のように真っ直ぐな笑顔を向けてくれていたのが、ただの同僚だった頃のような愛想笑いに変わり、今ではなぜか悲しみを孕んだ表情をよく浮かべている。
美鈴の悲しそうな表情を見ていると、なぜだか胸がざわざわとして落ち着かない。どうしようもなく焦りを覚え、何かしなければならない気にさせられる。
けれど、これから離婚しようという彼女に対して、千博ができることなどあるはずもない。千博が何かしたところで、美鈴はそれを望まないだろう。彼女が望んだ唯一のことは、偽りのない千博で過ごすことだけなのだから。
数日後に迫った離婚を前に、千博の気持ちは焦るばかりで上手くいかない。美鈴の笑顔が見たいと、ここ最近はそればかり考えているが、今さら彼女が昔のような笑みを千博に向けてくれることはないだろう。
もやもやと胸のうちで何かがくすぶる感覚に千博は思わずシャツの胸元を掴む。それと同時に掴んでしまった社員証が揺れ、机にこつんと当たる。
千博はその音ではっと我に返る。会社でも美鈴のことを考えている自分に気づき、大きく頭を振って頭の中から美鈴を追い出した。
ずっとトラブル対応に追われていて休む暇もなかったが、ようやく今日で一段落ついた。
メールの送信先間違いという部下が犯した初歩的で重大なミスは、他社をも巻き込んだ大騒動に発展していたが、結果的には新規事業の投資に繋がり、上層部も納得する結果となった。
心配事が一つ消えて安堵するも、千博の心はそれだけでは晴れない。一番気がかりなことがまったく解決していないのだ。晴れるわけがない。
今日の美鈴の様子を思い出して、今度は小さくか細いため息をこぼす。
美鈴に触れてしまったあの日以来、己の中のおかしな衝動をなくそうと彼女に近づきすぎないよう注意していたが、いつの間にか彼女の方が千博と一定の距離を保つようになった。あからさまな距離の置き方ではないが、あきらかに何か違う。少なくとも千博に向ける表情が以前と変わってしまった。
初めは偽りの愛を演じていたあの頃のように真っ直ぐな笑顔を向けてくれていたのが、ただの同僚だった頃のような愛想笑いに変わり、今ではなぜか悲しみを孕んだ表情をよく浮かべている。
美鈴の悲しそうな表情を見ていると、なぜだか胸がざわざわとして落ち着かない。どうしようもなく焦りを覚え、何かしなければならない気にさせられる。
けれど、これから離婚しようという彼女に対して、千博ができることなどあるはずもない。千博が何かしたところで、美鈴はそれを望まないだろう。彼女が望んだ唯一のことは、偽りのない千博で過ごすことだけなのだから。
数日後に迫った離婚を前に、千博の気持ちは焦るばかりで上手くいかない。美鈴の笑顔が見たいと、ここ最近はそればかり考えているが、今さら彼女が昔のような笑みを千博に向けてくれることはないだろう。
もやもやと胸のうちで何かがくすぶる感覚に千博は思わずシャツの胸元を掴む。それと同時に掴んでしまった社員証が揺れ、机にこつんと当たる。
千博はその音ではっと我に返る。会社でも美鈴のことを考えている自分に気づき、大きく頭を振って頭の中から美鈴を追い出した。