離婚を前提にお付き合いしてください ～私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした～

2. 夢まぼろしの現実か

　カーテンの隙間から差し込むわずかな光に、いつの間にか朝を迎えていたことを知る。

　千博の言葉がぐるぐると頭の中を巡り、昨夜はまったく寝つけなかったはずなのだが、どうやら考えすぎているうちに眠り込んでいたようだ。

　少し重い頭に軽くため息をつくと隣から声がかかる。

「おはよう」

　すっかり見慣れた千博の優しい微笑みがそこにある。美鈴への愛が確かに込められていると信じて疑わなかったその微笑み。

　それを向けられるのが嬉しくて、普段であれば同じものを返すのに、今は戸惑いながら挨拶を返すのがやっと。

「……おはよう」
「具合はどう？」
「うん……」
「気分悪かったら、ゆっくり寝ていていいよ」

　こめかみ辺りから後頭部へ向かって、優しくそっと髪を撫でられる。大きな手の平でゆっくりと何度も。まるで大切なものを労わるかのようなその仕草に、また複雑な思いが込み上げる。

　こんなにも大切に扱ってくれるのに、彼からすればこれも必要経費だというのだろうか。ただ演じているに過ぎないと。

　変わらない優しさをくれる千博に縋りつきたくてたまらない。でも、今の彼にそうするのはとても怖くて、いっそのこと突っぱねてしまいたいとも思うが、それもできない。

　せわしなく動く感情に不快感を覚え、軽く顔をしかめれば、千博はさらに美鈴に寄り添う姿勢を見せる。

　己の体で包み込むようにして美鈴をそっと抱きしめ、上から下へ背中をゆっくりと撫でさする。それはいつだって美鈴を守ってくれる千博そのもので、昨日までのように何の疑いもなく、このぬくもりにただ包まれていられるならば、それ以上に幸せなことはないのにと思わずにはいられなかった。