離婚を前提にお付き合いしてください ~私を溺愛するハイスぺ夫は偽りの愛妻家でした~
第四章 様変わりした関係

1. 独りになる準備

 バタンとリビングのドアが閉じる音が、まるで強い拒絶を表しているかのようで寂しくなる。つい先刻までここにいた千博は少しの笑みもなく、小さく「行ってきます」とだけ言って会社へと向かった。

 きっと挨拶をしてくれるだけマシなのだろう。けれど、ハグをして、キスをして、飛び切りの甘い微笑みを向け合いながら言葉を交わすのが当たり前だった以前を思うと、寂しさを覚えずにはいられない。

 一緒に暮らしているはずなのに、まるで一人でいるような心地にさせられて、どうしようもなく孤独を感じる。離婚前提であるとはいえ、付き合っているような雰囲気は少しもなく、これなら同僚として接していたときの方がまだ親しかったと言える。

 偽りの愛を終わらせても千博は変わらないなどという夢はもちろん見ていなかったが、さすがにこうも二人の空気が変わると落ち込まずにはいられなかった。

 それでも、あれから一ヶ月以上の時が流れた今は寂しさにも慣れつつある。最初こそ腫れ物に触るかのように互いにぎこちなかった空気も、ただ淡々と会話をできるくらいにはなった。

 会話の内容はもっぱら事務的なものばかりで、以前のようなたわいもない話はしないが、無視されていないならそれで十分。

 千博との再構築を目的とした交際ではなく、あくまでも美鈴が自分の気持ちに折り合いをつけるための交際だからこれで問題ない。本当の千博で接してくれるならばそれでいいのだ。
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