クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~
一、最高で最悪な結婚
元婚約者が会社の財産を着服して逃げた。そんな悪夢みたいな報せを受けた私は、出勤早々社長室で声を荒らげた。
「警察には言わないって、何をお考えですか社長!」
「凜(りん)、少し落ち着きなさい。あまり騒ぐと社員が驚くだろう」
そう言って、この会社の社長である父は静かにリモコンを手にとり曇りガラスに切り替える。外からは見えない状況になったのをいいことに、秘書ではなく娘として父に詰め寄った。
「まさか、水谷(みずたに)に情けをかけるつもりじゃないでしょう?」
「そうではない。社長として、会社のことを第1に考えた結果だ。 この件を表沙汰にすれば社全体が混乱に陥る。私はあくまで、身内のトラブルとして扱おうというだけだ」
「身内って…彼は籍も入れていない他人よ」
「分かっている。凜にはずっと苦労をかけたことも、申し訳ないと思っているんだ」
眉を下げ神妙そうに言われ、私は押し黙った。
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