クールなエリートSPは極悪か溺甘か ~買われた新妻は偽りの旦那様の執愛から逃れられない~
六、幸せな日



葉桜の季節、休日を使って瑛輔と出かけた。
生活に必要な買い物や外食などはよくするけれど、今日は違う。

「凜もあの、動物の耳を付けるのか?」

入場列に並びながら、瑛輔は背をかがめて何故かコソコソと私に聞く。

私たちはテーマパークに来ている。瑛輔は初めてだそうだ。ずっとソワソワしていて落ち着かない様子が子どもみたいで面白い。

「瑛輔も付けるのよ。あれがないとアトラクションに乗れないんだから」
「そ、そうなのか」

私の返答に分かりやすく眉をひそめ狼狽してみせるので、くすくすと笑ってしまった。
モフモフの可愛い動物の耳の装着は任意だ。つい出来心で嘘をついたことは、後で謝ろう。

「凜とこんな風に出かけるのは初めてだな」
「そうねぇ。たまにはいいじゃない? 上司の辻さんに感謝ね」

そう、テーマパークのチケットは瑛輔の上司の辻さんという方から譲り受けたのだ。
辻さんがテーマパーク関係者の知り合いに貰ったそうだけれど、若年層が多めの遊園地はハードルが高いからと新婚の瑛輔が頂いてきた。

「ああ、辻さんにはお土産を買っていく。しかし、本当に人気があるんだな。人も多いし、はぐれないようにしろよ」
「手を繋いでいるから大丈夫」
「こうしていると夫婦みたいだな」
「夫婦なのよ、私たち」

瑛輔がはにかむように笑った。
どうしよう、まだ開園していないのにもう楽しい。
初めてのデート。夫婦なのに、ちゃんとしたデートはしたことがなかった。

片思いだけど、瑛輔は私を大事に扱ってくれるし結婚しているから毎日顔も見られる。
今の私にはそれだけで幸せで、そんな日常を噛み締めているのだ。

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