貴方が結ぶ二重螺旋  ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
1 天使は翼をもがれた
 螺旋はぐるぐる巡って人を作る。
 そのはじっこはどう終わっているのだろう。結ばれているのか、永遠に離れたままなのか。
 高校の授業でDNAがどうとか習ったはずなのに思い出せない。
 窓の外ではセミがうるさいほどに鳴き、エアコンで涼しいリビングまで暑い錯覚に陥る。

「いいじゃんイケメンじゃん!」
 弾んだ声に、蒔田百合花(まきた ゆりか)はフェイクの暖炉を拭きながら母子の団らんを眺める。自分は空気。存在感を出したら怒られるので、静かにふき掃除を続ける。

 広いリビングは二階までの吹き抜けで天井が高く、螺旋階段がある。全体的に白を基調とした古めかしいヨーロッパ調で装飾が多くきらびやかだ。
 シャンデリアも家具もヨーロッパから取り寄せたというが、母の一番のお気に入りは豪華なソファだ。金色の流麗なラインに薔薇の花柄の座面。淡いピンクのクッションはレースがたっぷり使われている。

 そのソファに腰掛けて団らんの中心にいるのは自分と同じ遺伝子を持ち同じ顔と同じ両親を持ち、同時刻に生まれた姉、麗羅華(ららか)。子どもの頃は難しい漢字が使われていると喜んでいた彼女は、今は画数が多くて面倒、ひらがなのほうがかわいいからと、名前を書くときにはひらがなで名前を記しているという。

 茶色に染めた長い髪はゆるいパーマでふわふわしていて、血色のいい肌には高級な化粧品でメイクが施されている。身に着けた服はトータルで十万を超えているだろう。ダイヤのピアスは母と行った海外旅行で買ったのだと自慢された。

 対する自分は同じ二十五歳だというのに化粧もせず、ららかの中学時代のお古を着ていてみすぼらしい。同じ顔ではあるが、髪が黒いから一発で見分けがつくだろう。
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