貴方が結ぶ二重螺旋  ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
終章 DNAに刻まれた愛
 事務所の自室で通話を終えた迅はふうっと息をついた。
 婚約披露のあと、百合花の名誉を回復するために本業以外でも走り回った。

 騒動があったあと、オーベルジュ側からは不審者の侵入を許してしまった点を深く謝罪された。受付の女性からは気の毒なくらいに何度も詫びられた。

 免許証の確認までしたと聞き、仕方ない一面があるとして百合花も迅もすぐに許していた。騒動を起こして申し訳ない、と迅の側からもオーベルジュ側に謝罪をした。

 借金については金融会社と交渉して名義を本来の借主であるららかに変更させた。返済は父である啓一が一括で行ったという。
 酒気帯び運転と事故についてはららかが百合花に成りすましていたと本人に出頭させ、百合花の違反は消された。

 その過程で英里子と話す機会があり、気になって尋ねてみた。
 どうしてここまで百合花を虐げて来たのか、と。
(あの男)が昔の恋人の名前をつけたからよ! だからもうひとりは私がかわいい名前をつけてあげたのよ!」
 そんなことで、と迅はくらくらした。

 これは絶対に百合花には伝えられない。だから英里子にはその理由は黙って墓まで持って行くようにと厳重に念を押した。

 野生の動物は人の臭いがつくと子育てを放棄するという俗説があるが、人間にも似たようなことがあるのかもしれない。
 人間には理性があるはずだ。それを放棄するとこんなにも加虐的になれるのだろうか。
 しかし、と迅は思う。
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