俺様同期の執着愛

10、柚葵あまえる

【柚葵のターン】

 家に帰りたくなかった。
 綾芽とずっと一緒にいたいと思った。

 お前の家に行っていい?

 そのひとことが言えず、結局俺は自分のマンションの最寄り駅で綾芽の車を降りた。そのあと自宅に戻る気分になれず、近場の居酒屋にひとりで入って3杯くらい酒を煽った。
 元カノといたときはひとりで飲みに行きたい衝動に何度もかられ、だまってひとり飲みへ出かけたこともある。連絡がつかないと彼女から何度も電話やメッセージが入ったりしてうんざりした。

 ところが、今はひとりで酒を飲むことに虚しさを感じる。
 綾芽と一緒なら酒を飲まなくてもいい。ただふたりで部屋にいてテレビを見ているだけでもいいし、メシ食ってるだけでもいい。

 居酒屋を出ると雨が降ってきた。
 傘は持っていない。マンションまでそれほど距離はないので濡れても別に構わない。

「あー……かっこ悪ぃな」

 好きな女に告白もできねぇのかよ。
 情けない。

 どうしても綾芽の寝言が頭から離れないのだ。

『恭一さん』

 焦るな、俺。
 完全に綾芽の中からあいつが消えるまで待てよ。
 だが、それまで他の男が近づいてくると困るから、どんな手を使っても綾芽のそばにいる。たとえそれが友達以上恋人未満の関係でも。

 あー……付き合いてぇ。

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