true or false~銀縁眼鏡を外した敏腕弁護士は、清純秘書に惑溺する
【偽恋人の終わりが近づく】
朝5時頃、鍵が開く音がして、部屋を出ると片桐さんが帰って来た。
「お帰りなさい」
「起こしちゃったね。ごめん、こんな時間になって」
「大丈夫です。よく眠れましたから」
本当は一睡もしていない。
夜中に、もしかして気づかないうちに帰って来てるかもと、玄関に靴を見に行くと、やっぱり無くて、その繰返しで、ずっと起きていた。
「電車の方が早く帰れるだろうと思ったのが間違いだった。千佳さんと別れた後、駅に走ったんだが、終電に間に合わなくてね。タクシーで事務所に戻って、緊急案件の書類に目を通して帰るつもりだったが、そのまま寝てしまったんだ。本当に申し訳ない」
どうしたんだろう・・・
三多君に嘘を付かれている時のことを思い出した。
三多君の時だって、疑うことをしなかった。
片桐さんが嘘をつくはずがない。
それは、私がそう信じたいから。
「お疲れ様でした。私は大丈夫ですから」
「シャワー浴びてくるね」
上着を脱ぐと白のシャツの胸元に、口紅の跡が・・・
私の視線に気がついたのか、
「あぁ、あの時・・・クリーニングに出さないと」
一瞬、戸惑いを見せた。
それが意味するのは・・・
千佳さんを抱きしめた証・・・
「少し待っててね」
「はい・・・私、着替えてきます」
客室に戻り、涙を零さないようにタオルで抑えて、泣いちゃダメだって我慢した。
『ごめんね、深澤さん。余計に・・・火がついちゃった』
偽りの恋人役だけど、申し訳ないと思って謝った千佳さんの言葉を思い出す。