クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる

第1話 出会い


 夜の繁華街。
 喧騒の中、一人の女性が激怒していた。

「あなたたち、こんなことして、どうなるか分かっているんですか!?」

 彼女の名前は堂本紗理奈。
 今年二十四歳になる社会人だ。
 くるりとした睫毛、猫のような瞳、ぼってりした赤い唇、愛らしい小動物のような顔立ちは、年齢よりも少々幼く見える。
 今日は大学の友人の結婚式だったため、緩やかな茶髪を夜会巻きにしていた。
 そんな彼女の左右には、チンピラ風のチャラチャラした若い男と、スキンヘッドにサングラスのいかつい風貌のおっさんが立っていた。
 結婚式の帰り道、突然、この二人に取り囲まれたのだ。

(この人たち、共通のバッジをつけている。関東暴力団「鼠川組」の組員ね)

 スキンヘッドのおっさんが見下ろしてくる。

「お嬢さん、真心新聞社の新聞記者の堂本紗理奈だろう?」

 どうやらガラの悪い二人は、紗理奈のことを知っているようだ。
 隠したところで逃げられそうにもない。そのため、紗理奈は正々堂々と名乗ることにした。

「そうよ、私が堂本紗理奈よ。だったら、どうだっていうの?」

 すると、スキンヘッドの男が怒りも露わに口を開く。

「あんたこそ、自分の今の立ち位置、分かっとるんか? よくもおかしな記事を書いて、俺たちの組の取引を邪魔してくれたなあ? 組長が怒り狂って君を差し出せって言うとるんや」

 何人か殺してきたんじゃないかという程の地を震わすような声。
 ゾクリ。
 紗理奈の背中に冷や汗が流れたが、伊達にジャーナリスト兼新聞記者は名乗っていない。
 こんなことでは絶対に怯まない。

「あなたたちが私の記事を読んで、勝手に取引を止めたんでしょう? 私のせいにしないで」

「気が強いね、でもさ、今は捕まっているんだから、俺たちの言うことは聞いていた方が良いよ」

 若い男からはニヤニヤと下卑た視線を向けられ、紗理奈の肌がザワリと粟立った。
 おっさんが彼女の二の腕を掴んでくると、鈍い痛みが走る。

「さあ、こっちに来い」

 ぐいっと腕を引っ張られると、高いヒールを履いていたので転びかけてしまう。なんとか踏みとどまったが、力が強いせいで前に向かって歩くしかない。

「……っ……!」
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