クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる
第3話 初めての男女交際
近江と紗理奈の期間限定の男女交際がはじまって一週間近くが経った。
紗理奈を狙う犯人が捕まるまでの期間、セキュリティが万全な近江のマンションで暮らそうという話になったのだが、近江の仕事がなかなか落ち着かない。そのため、しばらくの間、紗理奈は自宅マンションで過ごすことになった。
勤めている真心新聞社の後藤局長からは、『話はついている。新聞社のビルに何かあっても困るし、しばらく出社はするな。外出は君の判断で勝手にしろ。身の安全を守りながら、適当に』と言われた。
恋人のフリは犯人が捕まるまでの期間限定だ。そのため、近江のマンションで暮らす間も、紗理奈はこのマンションを手放すつもりはなかった。
とりあえず最低限の荷物を段ボールに詰め込んで、いつでも引っ越せる準備はできている。
あとは近江の連絡待ちだ。
準備万端なため、ここ数日の間は、紗理奈は引きこもってPCとにらめっこの毎日が続いていた。
「ふう、在宅勤務だと、仕事とプライベートの区別がつきづらいわね」
椅子の上で、紗理奈は背伸びをした。
そもそも身体を張っての取材が好きな性分だ。
最初は在宅ワークだなんてラッキーぐらいに思っていたが、閉じ込められている感じがして、あまり好きじゃないことに気付いてしまった。
ちょっとコンビニにと思って外出しても、見張りの警察がうろついているのも、自由がない感じがする理由の一つかもしれない。
「それにしたって、近江さんから連絡がこないな」
学生時代、男女交際というものに対して憧れがあった。
毎日の頻回なメールやSMSメッセージでのやりとり、好きな写真や動画を共有し合って、眠る前には電話でおやすみと言い合ったり、お出かけの予定を立てたり……
だがしかし、そんなのは夢のまた夢だったのだ。
「警察って想像以上に忙しいのね」
紗理奈も新聞記者として警察の跡をついていって、記事になるネタを追うことがあった。二十四時間稼働している印象はもちろんあったが、誰かにSMSメッセージを送る余裕さえないとは思ってもいなかった。
「記者の私たちも忙しいけれど、それ以上みたいね。って、そもそも期間限定なんだから、一緒に過ごしている間だけ恋人らしく活動できれば良いんだから、頻繁に連絡なんて来るわけないけど」
それにしたって、近江とのやりとりは皆無に等しかった。
彼の仕事が忙しすぎるのか、SNSメッセージのタイミングも合わず、残念な感じになっていた。
普通の男女交際だったら、このまま自然消滅してしまうんじゃというぐらい連絡が取れない。
「なんだかなあ」
そもそも「恋人のフリ」でしかないのだから、気にしなくて良いのだが、心の奥底ではドラマや小説のような展開を期待していたのだろうか。
とはいえ、性格的にくよくよするのは合わない。
「ジムに行って身体でも鍛えようかな」
二十四時間身体を鍛えることができるジムに入会している。せっかくだから身体を動かして元気を取り戻そう。
紗理奈は、ベッドから立ち上がると、ジムのためのトレーニングウェアをバッグに詰め込みはじめた。
その時。
リン♪
スマホから鈴のような通知音が聞こえた。
画面を見ると……