クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる
第6話 初デート?
翌朝。
朝食を食べ終わった後、近江と紗理奈とは早速近所にあるスーパーへと出かけていた。
スーパーと言っても、閑静な住宅街にある高級スーパーで、庶民出身の紗理奈としては普段使いは絶対にしないような場所だ。とはいえ、野菜も無添加だったり新鮮だったり、身体に良さそうなものが多かった。近江は陳列した食材をまじまじと眺めて過ごしていた。
買い物を済ませて外に出ると、近江が紗理奈に声をかけてくる。
「堂本紗理奈、その袋を貸してくれ。俺が持とう」
紗理奈がスーパーの袋を手に持っていたのを見かねたようだ。
御曹司出身の警視正相手にそんなものを持たせて良いのか悩ましかったが、近江から手を差し出されたので、そっと預けることにした。
こんな風に男性を頼ったのは、死んだ兄以来だ。
嬉しくなって紗理奈の頬が緩んだ。
「ありがとうございます」
「いいや、こちらこそ。いつも美味しい料理をありがとう」
淡々とした口調だったが、最近は少しだけ近江の表情を読めるようになっているので、彼が心の奥底から感謝してくれているのが伝わってきている。
「スーパー、どうでしたか?」
「犯人捜査のためには入店したことがあったが、実際にこうやって食材を一緒に買うのは初めてだった。良い社会経験になったと思う。犯人の足取りを掴むのに役に立つだろう」
とてつもなく硬い雰囲気の返事が返ってきた。
近江と一緒に暮らしてしばらく経ったが、時折する会話の端々に警察としての誇りや矜持のようなものが滲み出てくるのを感じていた。
近江が真摯に警察としての仕事に向き合っている様を目にして、紗理奈の中の警察に対しての印象のようなものが、少しずつだが変化してきていた。
(一方的に嫌っていたけれど、こういう真摯に仕事に向き合う警察官もいるのね)
人によっては単純だと思うかもしれないが、短期間で、かなり大きな変化だと言えよう。
「近江さんはやっぱり真面目ですね」
「ん? そうだろうか?」
「ええ、まさかスーパーに対してそんな感想を抱くなんて。どうして、そんな風に思ったんですか?」
「ふむ、職業病というやつだろうか? つい、な」
近江は思考に耽った後、紗理奈の方を振り向いた。
「君の方こそ、『どうしてそう思うのか?』と理由をよく尋ねてくる」
「え?」
「おそらく君のそれも、新聞記者という職業ゆえだろう」
近江に指摘されて、紗理奈も初めて気づいた。
「どうしてそうなのか気になってしまうんですよね。なるほど、お互いに仕事の影響があるみたいですね」
「そのようだな」
しばらく歩を進めた頃、近江が紗理奈に向かって話しかけてくる。
「そういえば、俺は君の新聞記事を読んだことがある」
「私のですか!?」
「ああ、そうだ。先日の暴力団組員の鼠川組の記事なんかもよく取材されていたと思う」
まさかこんなところで自分の記事を読んでくれた相手と出会うなんて……
「ありがとうございます!」
だがしかし、次に放たれた言葉は無情だった。
「どこの無謀な女性記者だと思ったら、案の上、本人は想像通りの無謀な人物だった」
紗理奈は内心がっくしと肩を落とした。
(そんな高評価なはずはないか)