クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる

第9話 罠


 翌朝、なんとなく気まずい中で、一緒に朝食を食べた。
 黙々と食事をしていた近江は全て嚥下すると、箸を置いた。

「ごちそうさま」

 普段の近江だったら、「それでは出かけてくる」と言って仕事へと向かうのだが、今日は紗理奈のことをじっと見てきていた。

「何か御用でしょうか?」

 紗理奈が恐る恐る尋ねると、近江からとんでもない発言が飛び出してきた。

「君に話があると伝えていた」

「昨日、話したいって仰っていた内容ですか?」

「ああ。だが、その前に手短に伝えておきたいことがある」

「それはいったい?」

 すると、近江が淡々と口を開いた。

「脅迫状を送ってきていた犯人の足取りが掴めている」

「え……!?」

 初耳だったので紗理奈は衝撃を受けた。
 本来ならば喜ぶべきなのに……
 胸がズキズキと痛んで仕方がない。

(だって、犯人が捕まるということは……)

 近江とはもう一緒に暮らせないということだ。
 紗理奈は彼の顔を見るのが怖くて思わず俯いてしまう。
 近江は淡々と続ける。

「すまない。必ず犯人を捕まえてみせる」

「……はい」

 紗理奈の歯切れが悪くなる。
 心中複雑なまま、顔を上げられないでいると、近江が珍しく話を続けてくる。

「俺はまだ他にも、お前に伝えられていないことがある」

「……他にも、ですか?」

 紗理奈は俯いたまま答えた。
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