クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる

第11話 和解


 次に紗理奈が気づいた時には、誰かの背中の上だった。

(あれ? 私、誰かにおんぶされている……?)

 幼い頃の兄の背よりも、広くて堅くてごつごつしている。
 なんとなく頭の中がグルグル回っているような気がする。
 目を開けて、周囲を見渡すと、綺麗な夜空が見えた。
 少しだけ生ぬるい風が頬を嬲ってくる。
 胸元がなんだか温かい。

「私……」

「ああ、気が付いたのか」

 心地よい揺れの中、どこかで聞いたことのある声がする。
 ふと、近江の横顔が見える。
 確か、兄を殺した牛口と対峙していたら、近江が助けに来てくれたのだった。
 もしかしなくとも酔っぱらった自分のことを背負ってどこかに連れて行ってくれているようだ。

「酒に酔ったようだな。かなり度が強い酒を飲まされたようだ。無理して頭を起こそうとしないことだ」

 まだぼんやりする頭のまま、紗理奈は返事をした。

「はい、わかりました」

 近江から呆れたような溜息を吐かれてしまい、なんとなく切なくなった。

「そもそもここはどこなんですか?」

 なんとなく車で通ってきた場所ではあるが、暗いので自信がなかった。

「すまない、警察の皆に牛口たちのことを託してから、お前を休ませようと移動していたら、道に迷ってしまったようだな」

 どうも郊外に来てしまったようだ。

(なぜ……?)

 紗理奈の頭の上に疑問符が飛び交う。
 徐々に酔いが醒め始めていた。

「車に乗っていた時は迷っていませんでしたよね」

「最近はカーナビが優秀だからな」

「山でも迷っていませんでしたよね?」

「一本道だったからな」

 そうして、近江が謝罪をはじめる。

「すまない、どうもずっと追っていた事件の真相が判明して気が緩んでしまっていたようだ」

 近江の浮かれ方が常人とは違って、少々面白かった。

「なるほど……だったら仕方ありませんね。スマホで地図を検索してはどうでしょう?」

「俺は警視庁から着のみ着のままで来てしまった」

 紗理奈もスマホを取り出すが、残念ながら電源は切れてしまっている。
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