クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる
第2話 再会
翌日。
(今日はさっさと帰りましょう)
仕事を終えた紗理奈は、荷物をトートバッグに仕舞うと、席を立ち上がった。
紗理奈は、残業中の他の記者たちに頭を下げた後、エレベーターに乗って一階へと降りる。
自動ドアの前に立つと、冷たい風が頬を嬲ってくる。
「堂本」
背後から声がかかる。
ビルの暗がりから現れたのは、短めの白髪に無精ひげを生やした壮年の男性だ。紗理奈の務める新聞局の局長を務めている後藤だ。自称・紗理奈の父を称しており、貫禄のある風貌をしており、新聞記者の面々からも慕われている人物だ。
「お前、昨日、暴力団員たちに絡まれていたみたいじゃあないか」
突然、昨晩の話を振られたため、紗理奈の心臓がドキンと跳ねた。
「後藤局長、どうしてその話を?」
「俺の情報網を舐めるんじゃない。お前が兄貴の死の真相を知りたくて躍起になっているのは分かるが、あまりおかしな件には首を突っ込むんじゃないぞ」
「……分かりました」
後藤が無精ひげを撫でながら告げた。
「本当に分かっているのかねえ? ああ、そうだ、俺とカミさんみたいに、お前も良い相手を見つけたら、ちったあ、自分のことを大事にするんじゃないか」
「令和の時代に、その発言はセクハラで訴えられますよ、気をつけてください」
紗理奈が混同をきっと睨みつける。
「おお、怖い怖い」
大袈裟に肩をすくめた後藤へと挨拶を済ませると、紗理奈は今度こそビルの外へと出た。
近くにある地下鉄の駅へと向かおうと歩道を歩む。
(そういえば……)
バッグの中に忍ばせた青いハンカチのことを思い出す。
昨日、警視正の近江圭一から借りままになっているもので、洗濯して乾いたのでアイロンをかけたものの、どうして良いか分からず、そのままになってしまっていた。
(警視庁って話していたわよね、あまり関わりたくはないけれど……)
地下鉄を乗り継いで、ハンカチを届けに向かうべきだろうか?
そんなことを考えていたら……
「堂本紗理奈」
突然、何者かからフルネームで名前を呼ばれた。
後藤のしゃがれた声とは違う、凛とした声。
社内に何か忘れ物でもして、同僚が追いかけでもしてきたのだろうか?
振り返ると、そこに立っていたのは……
(え?)
見間違いだろうか?
思いがけない人物君にして、紗理奈は目を瞬かせた。