どん底貧乏美女は夢をあきらめない

爺様あらわる。どん底美女は勝負する。

ホテルを出ようとすると

「美玖さん」

と呼びかけられて、後ろを振り向くとお父様お母様のほかに恰幅のいいご老人と奥様らしい上品な老婦人がいた。

美玖を呼んだのはそのご老人、十中八九大吾の祖父だろう。美玖は嫌な予感がしたが

「はい、何か?」

と応えた。

「君、大吾の婚約者気取りで今日も
振舞っていたが、儂はあんたなんか
認めておらんからな。
榊の家にどこの馬の骨ともわからん
やつを迎えるわけにはいかん。
大吾は俺の眼鏡にかなった但馬玲子さんと
結婚させるつもりだ。わかったら、
さっさと身を引いてくれ」

「そうですか、でも私は馬の骨では
ありませんよ。れっきとした人間で
両親も素晴らしい人です。
間違っても初対面の相手に”馬の骨”
呼ばわりするような、礼儀の無い
人達ではありません。
私はそんな両親のもとに生まれて
幸せですし、家族はみんな大好きです」

そう言い放った美玖に、4人とも息を飲んだ。

「なんだと偉そうに、
家柄も金も無いくせに…」

「はい、今は令和の時代ですもの
公家も子爵もありませんわ。
どんな家柄が自慢できるのかわかりませんが
お金は生きていくうえで必要なだけあれば
いいと私は思っています。
大吾さんにお金はあげられませんが、
彼が健康でいつも仕事に力を尽くせるように、
美味しいお料理を作って体調管理をしたり、
仕事の面でもサポートすることはできます。
大吾さんと同じ大学を出てデザインの
勉強をしましたので、その辺のお嬢様よりは、
大吾さんの仕事の役には立つかと
自負しています」

「家庭料理が上手いとか、仕事のサポートが
できるだけでは榊の嫁は務まらんわ。
どこに出しても恥ずかしくない教養も身に
ついていないくせに、偉そうに言いよって
何様のつもりだ」

「私は夢野美玖26歳のただの女です。
でも、大吾さんを心から愛しています。
大吾さんが私を必要ないとおっしゃるなら、
いつでも身を引きます。
ご老体あなたではなく…」

「口の減らん女だな。大吾もこんな娘の
どこがいいのやら。よし、こうなったら
お前と但馬玲子と一般教養の試合をしてみろ、
お前が勝てば認めてやる。
どうせ負けるんだ。恥をかきたくなかったら
最初から白旗振って降参しろ!
日時は追って連絡する」

そう言うと、ご老体はふんぞり返って行ってしまった。
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