キミと桜を両手に持つ
episode12

 「ねぇ花梨ちゃん、変じゃない?」

 私は手鏡を見ながら隣にいる花梨ちゃんに尋ねた。

 「全然変じゃないですよー。今日はなんて言うか大人可愛い感じにしたんですね。すごく素敵です!」

 今日は打ち合わせの為アグノスの本社前に来ている。初めて花園さんに会うことに緊張しているからか何度も身なりを気にしてしまう。

 藤堂さんみたいな男性だったら花園さん以外にも付き合った人はたくさんいるだろうし、しかも彼も34歳という年齢。婚約者がいたとしても驚くような話でもないと思う。

 私も和真という恋人が2年間もいたわけだしお互い知らない過去が沢山あると思う。ただ前田さんが言うなかなか手強い元婚約者とは一体どんな人だろうと純粋に興味を持ってしまう。

 ちょうど彼の事を考えているとスマホが振動し、メッセージの着信を知らせる。バッグからスマホを取り出して新着メッセージを見ると私は小さく口元に笑みを浮かべた。メッセージは藤堂さんからで「今夜帰る」とシンプルなもの。

 結局あの日藤堂さんは物凄い速さで謎解きをして部屋から脱出した。でもその後二人で急いで帰ろうとしていた時に突然彼の携帯に電話がかかってきた。

 「……ごめん、これから大阪に行かなきゃならない」

 そう言うと彼は苛立たしげに上を仰いで大きな溜息をついた。

 「本社で請け負った案件でどのチームも手一杯で大阪のチームにまわしたやつがあるんだけど、それが納期に間に合わないほど遅れてるらしくて、現状を確認して何とかしてきてくれって言われた」

 彼のプロデューサーとしての腕前はどれほど炎上しているプロジェクトでもたちまち鎮火してしまうほど。彼ほどできる人はうちの会社にいない。仕方ないと言えばそうなのかもしれない。藤堂さんは名残惜しそうに私に何度もキスをすると、その日のうちに大阪に行ってしまった。

 でも何とか仕事を早く終わらせて帰ってこようと寝ずに働いているのだと思う。今朝も会社でメールをチェックしていると夜中の3時くらいに彼が送信したメールが何件もあった。
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