キミと桜を両手に持つ
episode13
「──…凛桜、どうした?」
「えっ?」
「さっきから上の空。何かあった?」
藤堂さんに言われ慌ててまだ手をつけていないフルーツタルトを見た。
彼は私の為にわざわざ大阪から美味しいタルトを買って帰ってきてくれて、食後一緒にお茶を飲みながら食べようとしているのに今日会った花園さんのことばかり考えてしまう。
私は持っていたフォークをカタンとテーブルに置くと覚悟を決めて藤堂さんをまっすぐに見た。そして彼女から頼まれた事を彼に伝えた。
「実は今日アグノスへミーティングで行ってきました。その時に花園さんという方に藤堂さんとお会いしたい事を伝えて欲しいと言われました」
彼は一瞬驚いたように目を見開く。でも私と同じようにカタンとフォークを置くと私を真っ直ぐに見た。
「……そうか。……凛桜には帰ってきたらこの話をしようと思っていた」
彼は「おいで」と言って私の手を取ると、テレビの前のソファーへと私を導いた。
「俺と彼女の事は聞いたことある?」
彼はソファーに座ると私を脚の間に座らせた。そして後ろから腕を伸ばすと私を腕の中に囲った。
「はい。昔付き合っていて、婚約してこのマンションも二人で住むために購入されたと聞きました」
「彼女とは三年前婚約した。でも結婚はしなかった。俺が破棄した」
「どうして…」
「彼女に浮気されたんだ」
「は……ええっ!?」
私は振り向いて彼の顔を思わずまじまじと見た。
「えっ……ってあの花園さんが!?」
なんと言うか全く信じられない。まるで処女のような初心で優しそうな彼女が……浮気!?しかも藤堂さんみたいな彼氏がいるのに!?
「な、なんで……」
別れた理由はもっと価値観の違いとかそんなものだと思っていた。人は見かけによらないと言うか本当にあの彼女が浮気とか全く想像もできない。
あまりにも驚いて言葉を失っていると藤堂さんは苦笑いをした。
「まあ普通はそう思うだろうな。でも俺は……実はあまり驚かなかった」
そうして藤堂さんは花園さんとの事を教えてくれた。