キミと桜を両手に持つ
episode16
季節は変わり11月の初めの週。
いつものようにリフレッシュルームで花梨ちゃんと佐伯くんそして平井くんと一緒にお菓子を食べながら雑談していると、お子さんの用事で午後出社になっていた加賀さんが制作部に入ってくるのが見えた。
彼女はいつものように自分のブースへと向かいバッグを置いてパソコンを立ち上げる。PCが立ち上がる間、何気なしにオフィスを見回した彼女は突然大きく目を見開くと、リフレッシュルームにいる私達のところへと走ってきた。
「如月ちゃん、大変だよ!すっごいイケメンが遠坂くんのデスクに座ってる!」
今朝から何度も繰り返しされる質問に、平井くんが慣れたように同じ答えを返した。
「あー、あれ、遠坂くんです」
「えっ!?あれ、遠坂くんなの!?彼、あんな顔してたの!?」
加賀さんは両手を口に当てて驚いたように目を丸くして、ガラス窓越しに見える遠坂くんを穴があくほど見つめた。
「遠坂くんってあんなに若かったの?まだ学生じゃん。何歳なの?」
「21って言ってました。でもアメリカの大学に飛び級で入ったらしいんですけど、二十歳であの超有名なS大学を卒業したらしいです」
私は彼から聞いた話を加賀さんに伝えた。はっきり言ってなぜこんな会社にいるのかわからないほど彼は頭がいい。
「えっ?アメリカの大学行ったの?」
「生まれたのは日本みたいなんですけど、育ちは向こうみたいです。だから喋るとちょっと変なアクセントがあるんです。日本語よりも英語の方が得意って言ってました」
「へぇ〜、凄いねぇ〜。あ、もしかしてあまり誰とも喋らないのは日本語がうまく喋れないから?」
「そんなことないですよ。コード書いてる時は集中してるから喋らないですけど、会社帰りとか話しかけると結構おしゃべりで、凄くいいやつですよ。この前も一緒に飲みに行きました」
佐伯くんがお菓子を食べながらそう答えた。