キミと桜を両手に持つ
episode03
 
 3月中旬の土曜日

 藤堂一樹はタクシーの窓から久しぶりに見る日本の風景を眺めた。今年は例年より桜の開花が早かったのか淡いピンク色の花を咲かせ始めた桜の木があちこちに見える。

 やはり日本はいいな。ゆっくりと酒でも飲みながら美味い日本食を食いたいな──…

 日本時間の早朝、一樹を乗せた飛行機は無事羽田空港に着陸した。サンフランシスコを現地時間の真夜中1:45分に出発して日本時間の朝5時到着。飛行時間およそ11時間15分。

 日本時間では朝の5時だがサンフランシスコではお昼。飛行機が離陸してからよく寝ていたのもあり少し乗り物疲れはしているものの眠くはない。


 一樹はこの三年間、サンホゼにあるIT企業、「Net Arch」の開発部で働いていた。サンホゼはサンフランシスコの南、車で約一時間のところにある。サンホゼもサンフランシスコと同様に有名な大企業がたくさんある街になる。

 一樹は今、日本にある開発部と本社のエンジニアの間に入って日本向けのシステムやアプリの開発をマネージする仕事をしている。しかし一時的だが急遽日本のオフィスに戻って欲しいと言われ、今回日本へ行くことになった。

 一樹を乗せたタクシーは港区にあるマンションへと向かっている。このマンションは3年前、貯めていた貯金をつぎ込んで購入したものだ。でも実際に住んだのはたったの二ヶ月だった。

 そういえば詩乃はまだあのマンションに住んでいるのか?確か以前聞いた感じだと恋人の(れん)のところに住んでいると言ってたな……

 確認のために電話しようと携帯を取り出し、詩乃の名前を見つけるとタップした。

 「……もしもし……こんな朝早くどうしたの?」

 数回のコールの後に詩乃は眠そうな声で電話に出た。

 「いま日本に着いた。お前まだあのマンションに住んでるのか?」

 「……は……ええっ!?ちょっと待って。いま日本って……今度来るのは六月って言ってなかった!?」
< 17 / 201 >

この作品をシェア

pagetop