キミと桜を両手に持つ
episode18
「凛桜、もう少ししたら車を乗り換えるよ」
藤堂さんは車を都心から一時間ほど離れた場所を運転しながら私に話しかけた。
明日29回目の誕生日を迎える私を連れて、藤堂さんは今朝早く起きて荷物を車に積むと早々に家を出た。でも不思議なことに今回はテントはいらないと言っていて、しかも途中で車を乗り換えるらしい。
テントはいらないけど車を乗り換えるなんてどんなキャンプに連れて行ってくれるのかとちょっとドキドキしながら窓の外の景色を眺める。
高速から降りてしばらくのどかな景色の中を走っていた彼はやがてとある店の前で車を停めた。私たちが車から降りると人の良さそうな中年の男性が店から出てきて私たちを出迎えた。
「藤堂さん、いらっしゃいませ」
「真宮さん、朝早くありがとうございます」
藤堂さんと真宮さんは知り合いなのか二人とも嬉しそうに挨拶をかわした。
「凛桜、紹介するよ。彼は真宮さん。ここの店長で俺の家族とは長い付き合いがあるんだ」
「初めまして。如月凛桜です」
私が挨拶すると彼はニコニコとしながら私を見た。
「真宮です。藤堂家にはいつも大変お世話になっています。如月さんのお話は一樹さんから伺っております。これからキャンプに行かれるんですよね?準備は整っていますよ」
彼はニコリと微笑んで藤堂さんに目で合図を送ると私たちを連れて店の裏側へと案内した。
店の裏にある駐車場には大きなトラックやバンみたいな車が何台も並んでいる。
「えっ、もしかしてこれって……キャンピングカー!?」
「そう、一番左側にあるのが俺たちの」
藤堂さんは驚いている私を見て笑うと手を取った。
「真宮さんはキャンピングカーの販売をしていて、今回彼から色々アドバイスをもらってこれにしたんだ。それでうちのマンションには駐車スペースがないから今日までここで特別に預かってもらってたんだ」