キミと桜を両手に持つ
epilogue
翌年三月下旬の土曜日
一樹はコツコツと凛桜の控え室まで歩くとドアをノックした。式の時間が差し迫っていて思わず腕時計を見てしまう。彼女の準備をしている式場のスタッフがドアを開けてくれ、足を一歩部屋に踏み込む。その途端思わず目を大きく見開いて立ち止まった。
「一樹さん!」
ヘアアレンジをちょうど終えた彼女は一樹を見ると満面の笑顔で立ち上がった。彼女は純白のAラインのドレスを着ていて、愛らしい小花のついたレースやビーズの入った刺繍のドレスは彼女の可憐さを一層際立たせている。
髪は綺麗にアップしてあって頭の上には美しいティアラが飾られている。彼女の何もかもが美しくて言葉を失ってしまう。
「凛桜……」
呆然とその場に立ち尽くしていると後ろから姪の紬がわぁっと声を上げて控え室の中に入ってきた。
「凛桜姉ちゃん、すごく綺麗〜。お姫様みたーい」
今回フラワーガールを務める紬は凛桜のように純白の可愛いドレスを着ている。髪の毛もカールさせて花の髪飾りが散りばめてあってとても可愛い。凛桜を見て走って駆け寄ろうとした紬を泰斗が慌てて抱き上げた。
「紬、凛桜さんのドレスが汚れたら大変だろ」
「はーい。でもお姫様みたいできれ〜い。紬も早く結婚した〜い」
それを聞いた泰斗はクツクツと笑った。
「それはまだまだずっと先の話だな。結婚する時はお父さんと一緒に考えような」
そう言って紬を抱いたまま一樹の方を見た。
「おい、早くしないと遅れるぞ」
「わかってる」
一樹は凛桜の元へゆっくりと歩くと、まもなく自分の妻となる女性の手を取った。
「……凛桜、実は君のお父さんの事を調べて俺たちの結婚の事を知らせたんだ。今日の結婚式の事も一応伝えてはいたんだが実際にいらっしゃるかわからなくて君には黙っていた」
「え……?」
凛桜はかなり動揺したように一樹を見た。